通訳ガイドってどんな仕事?

体験談
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みなさん、「通訳ガイド」という職業をご存じですか? この正式呼称では「通訳案内士」と言います。外国から日本を訪れる観光客に、英語で(あるいはほかの言語で)案内をする仕事なのですが、2020年の東京夏季オリンピック開催を見据えてますます需要が高まっています。

通訳なんですか?

いいえ、厳密には通訳ではないんです。名称にどうしても「通訳」とついている以上、会議通訳などのいわゆる本当の通訳士さんのイメージに引っ張られてしまいますが、誰かの言葉を訳すわけではありません。日本の観光名所の説明を外国語でおこなうのが仕事です。
それに、バリっとしたスーツを着てさっそうとおこなうイメージがあれば、それも間違いです。基本は明るい色の服(迷子になったお客様に見つけてもらいやすいように)と、歩きやすいフラットシューズ、ななめかけショルダーバッグかリュック、という出でたちです。団体さんのご案内であれば、腕に腕章をつけたり、ツアー名が載った旗を握っていたり、いわゆる旅行業界の人だと思ってください。

バスガイドなんですか?

バスガイドとして働く人もいますし、個人旅行客と一緒にウォーキングツアーを提供する人もいます。共通するのは外国語でガイド役をするということです。なかにはJCBなどの大手エージェントに登録している人もいます。また個人でホームページを作って海外に向けて発信し、みずから仕事を獲得しているような人もいます。希望にあわせてさまざまな働き方ができます。

ずばりギャランティはどのくらい?

 これはもうピンキリと言うしかありません。稼働率によります。ほとんどのガイドさんがフリーランスという形式で働いているのですが、この場合は日給×実働日という計算になります。会社員ではありませんから、ボーナスはもちろんありませんし、月次基本給なんてものも存在しません。
仮に日給25,000円のガイドが、月に22日勤務をして、このペースを12か月続けたとしたら、25,000円×22日×12か月=6,600,000円です。これは大手企業に勤める会社員の給与水準になってくるとは思いますが、多いと感じるか少ないと感じるかはおまかせします。さらに、(慣れてくれば別ですが)観光地や飲食店の下見は勉強を兼ねてしておくのがふつうなので、こんなハイペースで仕事を受けられる状態にないほうが現実です。ガイド研修にも出席したり、ほかの用事もあったりと、コンスタントに毎月22日も仕事を入れられることは実際はないのではないでしょうか。当然、下見にかかる代金は自腹ですから、歌舞伎や高級和食店の下見となればなかなかつらいところではあります。
さて、仮に日給を25,000円に設定してお話をしましたが、これはあくまで一例です。新人のうちはまる8時間拘束されて15,000円程度ということがふつうです。日給としては数値上まあ悪くはないのですが、準備の大変さと外国語で仕事を遂行するプレッシャーを考慮すれば、なんだか割に合わないなと個人的には思ってしまいます。半日ツアーという仕事もあれば、空港・ホテル間送迎というミニマムな仕事もありますし、実は長い時間のツアーが入ってこないとお金になりません。逆に、バスツアーで1週間の予約が入ったなんて場合はラッキーです。

稼ぎのピークは何歳ぐらいのときですか?

これも稼働率によるのでなんとも言えませんが、ガイド料の時間単価については経験がものを言う世界なので、実は60歳代・70歳代の先輩ガイドのほうが、バンバン動ける30代よりも高額だったりします。博識で英語もネイティブ並みの先輩であれば、時間単価5,000円くらいは当たり前になってきます。新人のうちは2,000円代後半にしておくのが無難なようです。ここで1つ重要なことなのですが、お客様からの報酬をそのまま懐に入れられるわけではなく、エージェントに20~30%を差し引かれてしまいますから、1時間5,000円の場合も実入りは3,500円~4,000円ということになります。
筆者は前職を辞してまだ数カ月。ガイドとしては数か月しか経験がありませんので時間単価は控え目に設定しています。経験不足のくせにあまり高額設定にしておくと、自分でハードルを上げてプレッシャーに感じてしまうので、当分はこのままで良いと考えています。それでも、いつかは単価を上げていきたいと思っているので、日々研鑽を重ねていくしかありません。観光地に関する勉強は当然として、日本のことならどんなテーマでもさっと英語で説明できるように、失業率のことや少子化のことなども英語でのインプット・アウトプットを欠かさないよう気をつけています。

チップはもらえますか?

もらえることが多いようです。お客様と何日も一緒に観光地をまわるような「スルーツアー」は特にガイドとの距離も縮まりますから、最後の別れの瞬間にギュっと千円札を手に握らせてくれるようなことも珍しくありません(さすがに1万円をもらったなんてすごいエピソードは筆者の周りでは聞きません)。西洋人の方は特にチップを「渡して当たり前」という認識があるので、受け取るほうとしても「いえいえ、そんな」などのポーズで何度も引っ張ることなく素直に「ありがとう」と受け取りやすいですね。もちろん、こちらも丁重に礼を尽くして受け取ります。
で、このチップなのですが、金額の大小を問わず、ガイドにとって本当にうれしいものなのです! 実質的な収入だからラッキーという意味ではなく、一日ヒヤヒヤ&ドキドキしながら観光地にお連れするわけなので、相手の満足度がとても気になるのです。少なくともチップをいただけたなら、お客様に満足していただいた証だと考えることができます。
ちなみに、こんな場合もあります。団体バスツアーのお客様であれば、事前にだれか1人リーダーをお客様どうしで内々に決めていて、こっそりチップの集金にまわっていてくれるなんてこともあるのです。その結果、硬貨がたくさんジャラジャラなんてこともありますが、ずっしり重たくなった事務用封筒をみなさんの前で受け取るのもまた味わい深いものです。

仕事は楽しいですか?

はい、筆者にとってはとても楽しくやりがいのある仕事だと感じます。もともと外国の方と話をするのが好きだという点がまず1つ。それから、海外をいろいろまわってきた中で出した結論は「ニッポンが一番!」でしたので、この日本で仕事ができるのがうれしいのです。ぼんやりと英語で仕事をしたいと思っていながらも、通訳・翻訳のような本当の英語の使い手になるにはスタートが遅すぎましたし、かと言って教師職や英語系出版社というのも週5日フルタイム勤務以上の過酷さがあります。総合的に考えて、いい仕事に出会ったと思っています。我が家の子供たちもまだ小さく手がかかるので、ある程度自由に仕事量を決められる今の「フリーランス」というスタイルも気に入っています。どこかおいしいソバ屋を見つけようと出かけるのも、下見半分、プライベート半分です。仕事が趣味の延長になるような、そんな生き方ができたらいいなと思っています。

どうすれば通訳ガイドになれるの?

 国家試験「通訳案内士試験」をパスする必要があります。これは年に1回だけおこなわれる試験で、これまでの実績では毎年8月に1次試験の筆記、12月に2次試験の面接というパターンがずっと続いていますから、今後もこれが変わるとは考えにくいでしょう。試験の実施団体は日本政府観光局(JNTO)です。気になる方はこの機関のウェブサイトをのぞいてみてください。過去問題や実施要項が掲載されています。(ちなみに筆者は「地理」に苦戦して3年目で晴れて合格となりました。)
 また、今年から規制緩和が始まりました。これまではこの国家試験をパスしないことには、お客様からガイド報酬を得ることは法律違反とされてきました。資格を保持していない場合はボランティア活動に限ってのみ可だったのですが、今後は合法で報酬を得てもよいことになります。しかし、実際に仕事がもらえるかどうかは別問題で、相変わらず「有資格者のみ」が所属できる通訳案内士団体や、「有資格者のみ」が登録できるエージェントが多いため、やはり資格は必要だと言ってほぼ間違いないでしょう。

一気に門戸が開かれた通訳ガイドという仕事に、少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。

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