シンガポールの官庁~職場のPCはネットNGに

文化の違い
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シンガポール政府は、公務員が職場のパソコンからインターネットに接続することを来年5月までに全面的に禁止する決定をしました。インターネットセキュリティのありかたについて、英語で読みながら考えましょう。
(英文は、”Singapore to cut internet access for government workers”, BBC News 2016/6/8)

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☆ 公用のパソコンをネットから遮断

The city-state, which prides itself on strong law and order, is cutting off online access for government workers from about 100,000 computers, according to the Straits Times.
強力な法と秩序を誇る都市国家シンガポールは、公務員が使用する約10万台のコンピューターをインターネットから遮断すると、ストレート・タイムズ紙が伝えた。

(単語チェック)
city-state:都市国家(=シンガポールのこと)
pride oneself on:~を自慢する、~を誇る
 This hotel prides itself on superb service.
  このホテルは超一流のサービスを誇っている。
 同じ意味の表現に、take pride in があります。
cut off:遮断する
 cut 単体だと基本的な意味は「切りつける」という動作のイメージです。このように「遮断する、分離する」は off を付けて表します。
 He has cut off a close relationship with the company.
  彼はその会社との親密な関係を断った。
government workers:公務員
Straits Times:ザ・ストレーツ・タイムズ(シンガポール最大の新聞)

私物のパソコンを職場に持ち込んで使ったり、職場から自宅にメールしたりすることを禁止するというのは日本の会社にもあります(後者の例は驚く人もいるかもしれませんが、情報流出を防ぐという目的でルール化している会社があります)。しかしこの時代に職場のパソコンによるインターネット接続を基本的に禁止するというのは、誰もが驚きました。

すでに全ての政府関係機関には、セキュリティ強化の新しい方針を説明・指示するメモが発信されています。

"We have started to separate internet access from the work stations of a selected group of public service officers, and will do so for the rest of the public service officers progressively over a one-year period."
「我々は一部の公務員の職場環境からインターネット接続を切り離し始めた。残りの職員についても、今後1年の間に段階的に同じ措置をとる予定だ」

(単語チェック)
work station:個人の仕事場、職場環境
public service officer:公務員
progressively:漸進的に、段階的に

これは、シンガポール政府による定期的なセキュリティの見直しの結果下された決定ということですが、シンガポール政府のウェブサイトは、2013年に国際的ハッカー集団「アノニマス」にハッキングされたことがあります。

また昨年から、一部中央銀行へのハッカーによる不正アクセス、さらにそれによる送金被害まで起こっていることを重視したものだと思います。

The Straits Times reports that workers will be able to access the internet on their private devices.
ストレート・タイムズ紙によれば、職員は私有の端末を使ってインターネットに接続できるということだ。

政府職員がインターネットを利用できるのは、自分が所有し、かつ政府のネットワークやメールシステムにリンクしていない端末だけに制限されるそうです。また、必要な場合には私用アカウントに業務用メールを転送することは許されるようです。

☆ セキュリティか生産性か?

ところが、インターネットセキュリティの専門家は、たとえパソコンをネットから遮断しても、USB端子を使っている限り脆弱性は残ると指摘しています。

"One can obviously improve cyber-security significantly by not allowing computers to connect to the internet. However, further protection can be achieved by having special computers, which have no USB connectivity, in order to remove another common threat vector."
コンピューターをインターネットに接続できなくすれば、言うまでもなくサイバーセキュリティーは著しく改善する。しかしより一層保護しようとすれば、USB接続のできない特別なコンピューターが必要だ。USBも脅威を媒介して広めてしまうので取り除かなければならない。

(単語チェック)
obviously:言うまでもなく
significantly:著しく、大いに
protection:保護すること
connectivity:(通信ネットワークの)接続性
threat:脅威
vector:媒介、影響力

職場のパソコンがインターネットに繋がらないようにしても、USBが全体のセキュリティを脅かす経路(媒介=vector)になっているということです。

USBはパソコンと周辺機器を接続する標準的な方法になっています。思いつくだけでも、USBメモリー、DVDやCD、プリンターなどがあります。またUSB接続を通じた充電をすることも可能です。

そう考えてみると、たとえば職員が自分のスマートホンの充電が切れた時に安易に職場のパソコンのUSBポートから充電したりすると(これはそもそもしてはいけない行為ですが)、そこから会社のパソコンが次々とウィルスに感染してしまう恐れがあり、また情報漏えいの原因にもなります。

However he said, while cutting off internet access makes sense for workers dealing with sensitive information, for others it might be a costly inconvenience.
しかし、インターネットへのアクセスを遮断することは、機密情報を扱う職員にとっては意味のあることだが、それ以外の業務に携わる職員にとっては利便性の点で大きな犠牲を払うことになるだろうと彼(専門家)は指摘している。

(単語チェック)
make sense:意味がある、理にかなっている、筋が通っている
sensitive information:機密情報
 sensitive は一般には「感覚がある、感知できる」「敏感な」などの意味で使いますが、ビジネスや情報関連では「慎重に扱うべき、秘密の」という(confidential に似た)意味が重要です。
costly:高価な、犠牲の大きい
inconvenience:不便

シンガポールはインターネット先進国で、ブロードバンドの平均速度が世界最速と言われていて、行政サービスにも活用されています。こうした業務は今後も行われていくとのことですが、すでにシンガポール社会では「時代に逆行する」という批判の声が上がっています。

役所の内部でのセキュリティと利便性のバランスについて、落とし所をどの当たりにすればいいのでしょうか?

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