イギリスの歌劇場「ロイヤル・オペラ・ハウス」の楽団員で著名なビオラ奏者が、オーケストラのリハーサルが原因で難聴になったという訴えを起こしました。こうした告訴は初めてのケースですが、実はかなり多くの団員が同じように苦しんでいることがわかりました。
今回は芸術家の健康リスクについての記事を読みながら、英語を勉強しましょう。(英文は、”Musician sues Royal Opera House over ruined hearing” BBC News 2016/4/1付)
Chris Goldscheider claims his hearing was irreversibly damaged by brass instruments put immediately behind him.
クリス・ゴールドシャイダー氏は、自分のすぐ後ろに配置された金管楽器の音のせいで、聴力が完全に損なわれたと主張している。
・claim:主張する
英語のclaimは日本語でいう「クレーム」とは違うことに気をつけましょう。日本語の「クレーム」は不平不満の意味合いが強いですが、これを表す英語はcomplainです。
このビオラ奏者は、自分の被った損害(難聴になったこと)を説明して、その損害に対して責任のある相手(ロイヤル・オペラ)に、損害の補償を要求しています。これがclaimの意味です。
・hearing:聴力、聴覚
「リスニングテスト」のlisteningは聞いた内容を理解することですが、hearingは「聞こえる・聞こえない」の段階の能力のことです。
・irreversibly:取り返しがつかないほど
ブルゾンなどで裏返しても着られるのが「リバーシブル」(reversible)。これに否定の接頭辞「ir-」がついて「逆さにできない」がirreversible。つまり元に戻らない状態(-lyがついて副詞)です。
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☆ ジェットエンジン並みの音量
The Musicians’ Union says hearing damage is a major problem for musicians playing in orchestras.
音楽家組合によれば、聴覚障害はオーケストラで演奏する音楽家にとって重大な問題だという。
・hearing damage:聴覚(聴力)障害
訴えによると、直接の原因は2012年、ワグナーのオペラ「ワルキューレ」のリハーサルでした。ジェットエンジン並みの137デシベルに達する音量によって、彼の聴覚はその場で異常を起こしたとのことです。
Goldscheider says this amounts to “acoustic shock”, one effect of which is that the brain hugely amplifies ordinary sounds.
ゴールドシャイダー氏によれば、彼はこのために「アコースティック・ショック」を発症した。これは脳が普通の音を極端に増幅してしまう原因になる。
・acoustic shock:アコースティック・ショック
ヘッドホンを使い過ぎた時などにもこの聴覚障害が起こるそうです。
・amplify:増幅する
楽器に使う「アンプ」はamplifier。音を大きく鳴らす機器ですね。
“My newborn daughter last year was crying so much I actually got noise-induced vertigo because of my injury and I ended up in bed for three weeks.”
「昨年、生まれたばかりの娘がひどく泣いた時、私はこの障害が原因で実際に雑音によるめまいを起こし、3週間寝込むことになった。」
・noise-induced:雑音によって引き起こされた
induceは「誘発する」
・vertigo:めまい
・end up:結局〜になる
☆ injury
彼に起こっている障害は「音響外傷(acoustic trauma)」とも言われるものですが、これは耳の器官が損傷したということで、BBCの記事でもこれを表すのに(disease「病気」ではなく)injuryいう単語を使っています。ここでinjuryを使った表現をまとめておきます。
serious injury:重傷
minor injury:軽傷
suffer an injury:負傷する
escape injury:ケガを免れる
avoid injury:ケガを免れる
internal injury:体の内部の損傷
multiple injuries:(同時に)複数の傷
☆ 「法医学上の問題」
ロイヤル・オペラ側は責任を認めておらず、次のようにコメントしています。
“Mr Goldscheider’s compensation claim against the Royal Opera House is a complex medico-legal issue, which has been going on for some time and is still under investigation.”
「ゴールドシャイダー氏のロイヤル・オペラ・ハウスに対する賠償請求は、複雑な法医学上の問題で、これまでしばらくの間進行してきましたが、現在まだ調査中です。」
・compensation claim:賠償請求
・medico-legal:法医学の(medicolegalと一語でも書きます。)
・going on:進行中で
・under investigation:調査中で
ロイヤル・オペラ側の言う「法医学上の問題」とはどういうことでしょうか?ゴールドシャイダー氏の弁護士が言います。
“Essentially what is being said is that the beautiful artistic output justifies damaging the hearing of the musicians performing it.”
「美しい芸術作品を演奏したために聴覚障害が起こっても、それは正当化されるというのが、彼らの本質的な主張だ。」
・essentially:本質的に
・artistic output:芸術作品
・justify:正当化する
こうしたことが認められるのかどうかが、これまで法廷で争われたことはありませんが、問題はゴールドシャイダー氏1人の悩みではないようです。
There are around 100 players in the orchestra at the Royal Opera House. The BBC has learnt more than a quarter report occasional or mild hearing illness, and that in the 2013/14 season, there were seven cases of sickness absence related to noise problems and a total of 117 weeks of sick leave taken. That’s not music to anyone’s ears.
BBCの調査では、楽団員の4分の1以上が一時的または軽度の聴覚異常を報告している。また2013年から2014年にかけての1年間で騒音障害による病欠が7例あり、病欠期間は述べ117週となった。これは気分の良い話ではない。
・occasional:一時的な
・sickness absense:病欠
・sick leave:病欠
・be music to (人)’s ears:心地よく響く
今後似たような訴訟が出てきそうな予感がしますが、最後にmusic to earsというフレーズが出てくるところに、記者のセンスが感じられる記事ですね。
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