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iPhoneロック解除問題に揺れるアメリカのITの企業~生命の安全かプライバシーか?

アメリカのIT企業アップルと米連邦捜査局(FBI)が、テロ事件の容疑者が使っていたiPhoneのロック機能の解除をめぐって争っています。
プライバシー保護と生命の安全の間でアメリカ国民の意見も割れていますが、さらに気になるのはアップルと同じ立場にある大手IT企業でしょう。
この話題を取り上げたNew York Timesの記事を読んでみました。

(英文は、”Tech Rallies to Apple’s Defense, but Not Without Some Hand-Wringing” 2016年3月2日付New York Timesより)

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テロ捜査への協力にIT企業の建前と本音

そもそもの発端は、昨年12月にカリフォルニア州サンバーナーディーノ(San Bernardino)市で起きた銃乱射事件でした。
14人の犠牲者を出したこの事件の容疑者が過激化組織「IS」への忠誠を示していたため、FBIは容疑者が持っていたiPhoneの記録から、ISに関する情報を得ようとしました。
ところがiPhoneの画面ロックを解除できなかったため、FBIがアップルに協力を求めたところ、アップルが拒んだのです。

この事件についてアメリカのIT業界では、顧客のプライバシー保護の立場からほぼアップル支持と言われていますが、内心大きな不安を抱えている企業も少なくありません。

Several feared the showdown with the government was too risky and could have far-reaching implications for the tech industry if Apple lost.
 政府と対立するのはリスクが大きすぎ、もしアップルが負けるようなことがあればその影響は計り知れないだろう、と懸念する企業もあった。

◆showdown

 問題を解決するための論争や戦いなどのことをshowdownといいますが、争い(conflict)そのものの意味で使われることが多い単語です。

そうした不安の声もある中で、結局多くの企業が実際にアップル支持の行動を裁判所に対して起こしました。

Those misgivings ultimately did not win the day. About 40 companies and organizations are expected to file court briefs on Thursday backing Apple.
 こうした懸念は結局退けられた。約40の企業や機関が3月3日にアップルを支持する趣意書を裁判所に提出する予定だ。

◆win the day

 これは戦いや議論に「勝つ」という意味です。
それならwinでいいじゃないか、と言わずに、よく出てくるので覚えておきましょう。
gain the day、carry the dayというバリエーションがあります。

 ここで、dayを含む表現でよく使われるものをまとめて見ておきます。
(1)at the end of the day = 結局、最終的には。
 At the end of the day I am responsible for what happened.
 最終的には、起こったことの責任は私にある。
(2)call it a day = (その日の仕事などを)終わりにする、切りあげる。
 Let’s call it a day.
今日はここまでにしましょう。
(3)not 人’s day = 運がない。
 It’s not my day.
 今日はついていない。
(4)That will be the day. = まず起こり得ない。
(5)to the day = ちょうど(=exactly)
 It is five years to the day since the 2011 Tohoku earthquake.
 2011年の東北の地震からちょうど5年経つ。

◆file

 動詞として使う file は裁判、訴訟に関する必須の単語です。
日本語のいわゆる「ファイルする」だけでなく、書類を「提出する」という意味から、さらに苦情や請求を「申し立てる・提訴する」という意味につながります。
ニュース記事でfileが出てきたら、まずこれだと思っていいくらいよく使われます。

アップル敗訴なら「悪い前例」に?

 さて、ニュースに話を戻しましょう。
この趣意書(brief)に賛同すると見られるのは、ドロップボックス、フェイスブック、グーグル、マイクロソフト、ヤフーなどネットの巨人がズラリ。
当初、マイクロソフトのビル・ゲイツ元会長はFBIに協力すべきだと言ったと伝えられましたが、実際には「議論を尽くすべきだ」という考えだそうです。

 一方、この状況に強い不安を抱いている企業経営者は、どんな心配をしているのでしょうか?

They were worried that Apple had picked a fight that could end up backfiring on the rest of the industry.
 アップルがケンカを売ったために、結局同業者にとって面倒なことになるのではないかと心配していた。

◆pick a fight

pick(拾う)なのでケンカを受けて立つということかと思ったら、実は「ケンカを売る、ふっかける」方を言います。

 IT業界の経営者なら誰でも、プライバシー保護と暗号化(encryption)の重要性を疑う人はいません。
絶対に守るべきものだと考えています。そうは言っても、もしアップルへのセキュリティ解除命令が拒否できないとなったら、それが「悪い前例」になり、その結果

that could force other companies to compromise the security of their products for law enforcement.
他社も警察の命令で製品のセキュリティ情報を明かさなければならない

ということが起こるかもしれません。

◆law enforcement

本来は文字通り「法の執行」のことですが、それを行う「警察(権力)」という意味で使われているのがこの文です。

生命かプライバシーか?アメリカ全土で意見は真っ二つ

 実際、この問題についてはアメリカ中の意見が分かれています。
米国の世論調査機関ピュー・リサーチセンターによる調査では、回答者の51%がロックを解除すべきだと答え、アップルへの支持は38%にとどまりました。
ところがロイター/イプソスの調査では逆に、アップルに同意するという意見が46%で、同意しない(35%)を上回っています。

 また、アップルにロック解除を命じたのはテロ事件の起こったカリフォルニア州の連邦裁判所ですが、その後ニューヨーク州の米連邦地方裁判所は、アップルの主張を認める判決を下すなど、裁判所の判断も分かれています。
世論調査も裁判所の異なる判断も、人命とプライバシーの板ばさみに迷う心理を表しているのでしょう。

 ペイパルの共同創業者マックス・レブチン氏の言葉は、IT企業経営者の揺れ動く心境を象徴的に表しています。
「私の考えは“clear-cut(疑う余地のない), black-and-white(白黒がはっきりした)”FBI支持だったが、ほんの数日前にアップルが正しいと思ううようになった」。

FBIが求めているのは、あくまで犯人1人のロックを解除ですが、アップルは「1台のiPhoneで可能になってしまえば、絶対に不可能ということで得ているセキュリティへの顧客の信頼を失ってしまう」という理由で応じられないと主張しています。

あなたはどう思いますか?

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