こんにちは。ころすけです。都内の公立小中学校をよく訪れるという仕事柄もあって、笑い声の絶えない英語の授業も多く目にしてきました。先生たちの工夫が光る授業の様子を本記事にてお伝えしたいと思います。
あいさつで元気いっぱいに
公立小学校の授業は、一般的には45分です。英語の授業では、このうち最初の5分は「あいさつ」に充てることがほとんどです。「あいさつ」は授業のはじめのルーティンみたいなもので、ここで生徒と双方向のやり取りをしてウォームアップをはかるわけです。「あいさつ」なのに5分もかけるなんてちょっと長いのでは…? とお読みになって感じるかもしれませんが、実は意外と5分くらいでちょうどよいのです。
さて、「あいさつ」ではどんなことがおこなわれていると思いますか? 「Good morning.」や「Hello.」、ときには「Good afternoon.」といったフレーズで始まることがもちろん多いのですが、このあと「How are you?」と先生が尋ねることで一気に生徒が主体的に授業に参加しだすのです。昔の授業では「How are you?」ときかれたら、「I’m fine, thank you. And you?」と呪文のように全員で一斉に答えていたかと思います。元気ではなくても「I’m fine.」と答えなくてはいけない点が、なんだかシュールでした。ところが今の授業の主流は、それぞれの感じたことを素直に表現することに重きが置かれています。ゆえに、「I’m fine.」以外にもさまざまなバリエーションで応対する練習を毎回授業のはじめにおこなっているのです。
「How are you?」の答えのバリエーションとして、「I’m fine.」以外だと「I’m good.」「I’m OK.」「I’m great.」という言い回しがありますね。小学校英語ではもちろんこれらも扱うわけですが、実際の会話では「元気です」の言い回しだけ覚えていてはしかたありません(コミュニカティブな英語力の習得を目指す文科省の方針に沿うなら、やはり「元気です」だけではいけません)。そこで、どの現場でも本当によく工夫して”実際の”いまの自分の気分を伝える練習をさせています。これには筆者も驚きました。
1限目にも「I’m hungry.」と先生が言えば笑いが起きますし、また先生が「I’m sleepy.」と言えばALTが「What!?」と即座にツッコミを入れます。シューンとしょげたふりをする先生は立て続けに「I’m unhappy.」と言ったり、ALTも「Me, too. Let’s go home.」とそれに合わせたりして、うまく生徒の注意を引きながら授業に笑いをもたらしています。と同時に、さまざまな語彙を覚えていけるので、最近の「あいさつ」のアプローチはとてもよいのではないでしょうか。
やっぱりお笑い芸人のネタは欠かせない
テレビでよく見るお笑い芸人のネタには、ご存じのとおりアルファベットや英語がからむものもたくさんあります。古いものから最新のものまで、使えるものはどんどん授業に取り入れ、楽しい授業が展開されています。いくつかご紹介しますね。
I have a pen.
こちらはピコ太郎の歌で有名ですね。「I have a pen ~, I have an apple ~, Nnn! Apple pen!」と振付までYoutubeで公開されていましたから、世の中のほとんどの小学生が歌って踊れると思います。たとえばこの歌を、単数形と複数形のちがいを教える授業で導入していた先生がいました。そのとき先生は右手にはペンを1本、左手にはペンを3本持って、右手を挙げているときには「I have a pen ~」と歌い、左手を挙げているときには「I have pens ~I have three pens ~」と歌詞を替えて歌っていました。今度は生徒にもやらせるのですが、もちろん生徒たちは最後の「pen, pineapple, applepen!」までやり切りたいようで、ここまで含めて生徒たちの目がとても輝いていたのが印象的でした。
OK牧場
ずいぶん古いネタですが、ガッツ石松の「OK牧場」は、短くて使い勝手のよいフレーズだということで教育現場でも意外に重宝されています。能天気で明るいあの感じが、英語の授業の雰囲気にはぴったりなのです。シンプルに「OK」と先生に言われるよりも、親指を立てて「OK牧場」と言ってもらえたほうが、生徒もなんだか心がなごみますよね。先生がなにか質問を投げかけて生徒に挙手して答えさせるとき、正解であれば「OK牧場!」と言っていた場面がありました。ほかにも、ゲームの説明がひととおり済んだあと先生が「OK牧場?」と生徒に確認したところ、全員で一斉に「OK牧場!」と返ってきた場面もありました。実にインタラクティブで理想的な”全員参加型”の授業だったと、そのとき筆者は感じました。
Why Japanese people!?
こちらは厚切りジェイソンという白人芸人のネタですね。日本人の「あるある」を授業中に紹介するときがあるのですが、このときの定番のツッコミとしてALTが「Why Japanese people!?」と絶叫するのを何度も目にしてきました。たとえば年間行事を月ごとに振り返る単元では、お正月/ハロウィン/七五三/クリスマスのように宗教をごちゃまぜにして祝う日本人の風習を、「Why Japanese people!?」とツッコんでいたことがありました。ほかに、だれにでも答えられる簡単な質問なのに、シーンとして手が挙がらないときは、「Why Japanese people, so silent!?」とALTが大声で嘆いていました。これがアイスブレイクとなり、どんどん手が挙がったというのも筆者は目撃しました。
先生の個人ネタも光る!
授業を盛り上げようと、個人的にお笑いを研究しているかのような先生もまれにいます。男性の先生に多いですね。
否定形を扱う単元で、こんなふうに言っていた先生がいました。「I have no hair, I have no money, I have no friend.」という立派な自虐ネタです。実際に髪の毛の薄い男性の先生だったので、その切実さがよけいにおもしろかったです。しかも、「I don’t have hair, I don’t have money, I don’t have friend.」とあらためて同じ内容を今度は「don’t」を使って言い直しているので、学習効果も高いですね。それにしても、同じネタを重ねてお笑いをとりに行くテクニックがまたすばらしかったです。
個人の気質としてお笑いのポテンシャルが高い先生だと、授業中はずっとなにかしらおもしろいことを言って笑わせています。自分のことを「Mr. +名字」ではなく、「Mr. Handsome」と生徒に呼ばせていた先生もいますし、ほかに「エックセレ~~~ント!」と強烈なアクセントで生徒を褒めちぎっていた先生もいました。授業に参加する生徒の立場としては、自然とひきつけられる楽しい授業だと思います。
生徒もノリノリで悪ふざけ
ありがちなのが、先生がジョークを言うことによって、生徒のなかにもふざけてお笑いネタを披露し始める子が出てくることです。英語にからめたネタであればセーフなのでしょうけれど、まるで英語には関係ないネタまでどんどん言い出す雰囲気になってしまっては授業の進行としては厳しいものになります。先生としては、明るい授業の演出に心がけながらも、それが高じて騒ぎ放題のクラスになってしまってはまずいわけです。この絶妙なさじ加減が難しいですね。
日本人の先生の場合は、もともとALTに比べてユーモアには慣れていないものですから、”お笑いスクリプト”を頭の中に入れて教室で実験的にジョークを言ってみる、というケースが実は非常に多いものです。それに比べて生徒たちは、しかも小学生であれば、授業中であることを気にせずに自由闊達にものを言います。完全にスベっている自分のオリジナルのネタでも、堂々と大声で披露します。先生たちもときには彼らのメンタルの強さがうらやましかったりするのでしょう。
いかがでしたか。教室内がワッと盛り上がる様子をご想像いただけましたか。小学校の英語の授業といえば、生徒に”英語を好きにさせる”のがその大きな役割です。今後ずっと長く続く英語学習の導入部として、小学校では楽しい授業の提供をする必要があります。こうして現場でさまざまな工夫がなされているのを知って、筆者も保護者のひとりとして安心しました。本記事をお読みなり、ほっこりと感じていただけたら幸いです。