こんにちは。ころすけです。EnglistAの記事を書くかたわら、フリーランスでときどき外国人観光客のガイドをしています。羽田空港/成田空港へのお客の送迎も業務の一部なのですが、あいにく2019年9月の大型台風と日程が重なってしまいました。そのときの緊迫したエピソードをぜひみなさんに共有したいと思います。外国からのゲストと一緒にいるときのトラブルシューティングに役立てば、との思いで、なるべく詳しく述べてまいります。
台風をナメてはいけなかった
9月といえば、日本列島は台風シーズンですね。アメリカ人のお客さんはよく「アメリカにはhurricaneがあるんだ」と自然現象の規模の大きさをよく自慢げに(?)語るのですが、どうもアジア全般で起こる台風のことは軽視している感じがします。確かにアメリカの自然災害がニュースで伝えられるときには、家屋やら自動車やらが暴風で一瞬で吹っ飛ばされるシーンがとても象徴的ですよね。暴風という表現では足りません。「超」暴風と言うのがふさわしいでしょう。さすがはアメリカ、ハンバーガーだけでなくすべてがビッグサイズです。
対して日本の台風ですが、日本人が「台風」=「typhoon」と直訳的に覚えてしまっている事情があって、本来英語の「typhoon」に値しない小さな台風も「typhoon」と言って、怯えて、備えて、それでも社畜のように出社を試みるサラリーマンたちがアメリカ人には奇異に映るようです(筆者から見れば、これはどんな状況下でも職務をまっとうしようとする日本人の美徳でしかないんですが…)。
さて正しくカテゴライズすると、最大風速が32.7m/s以上のものをtyphoon, hurricane, cyclone と呼ぶそうです。typhoonは東アジア(一部東南アジア)で生まれるもの、hurricaneは北米大陸で生まれるもの、cycloneは北インド洋で生まれるもの、このように地域による名称の区別があるだけです。日本語で「台風」と表現しているのは、最大風速が17.2m/s以上のものすべてを指しますから、どうりでアメリカ人からすると「日本人はtyphoonと言ってあわてすぎ!」な印象を抱くわけですね。ですから筆者も、台風ではいちいち混乱しないようにしていたんです。これがいけませんでした…!
筆者がトラブルに巻き込まれた今回の台風ですが、あとで調べてみると最大風速は57.5m/s(千葉市、9月10日午前4:28)だったそうです。関東における観測史上1位なんだとか。これは「アメリカ人もびっくり!」な規模の台風であることは間違いありません。
交通機関がストップするなんて…!
さて、筆者は台風の過ぎ去った翌朝9時に、アメリカ人のお客さん(ご夫婦)と半日ツアーの待ち合わせをしていました。最後に成田空港へ送っていくことになっていました。
今回の台風は大型であるとなんとなくは知っていたんですが、台風が東京を通り過ぎるのは夜中であり、朝にはすべての心配ごとがなくなっていると思い込んでいました。各交通機関がめずらしく早朝時間帯の「計画運休」を発表しており、それでも朝7時には電車もバスも通常どおり動き出すことが前夜にアナウンスされていたので、お客さんと待ち合わせの朝9時には確実にツアーが提供できると思っていました。
念のためにツアーキャンセルの有無を前日にたずねてみたのですが、ずいぶんと勇気のあるお客さんのようで、「予定どおり決行希望。台風が収まりきっていなくても、荒れた東京の街を歩いてみることにワクワクしている」なんて返ってきました。
確かに午前8時には風は完全に止んでいました。しかし、交通機関のほうが思ったよりずいぶんとダメージを被っており、当日の朝は地下鉄の一部しか動いていませんでした。地上を走る電車は9割が運休。幸いなことに筆者は地下鉄で待ち合わせ場所に行くことができました(地下鉄だけはセーフだったんです)。またツアー中は、地下鉄とバス、タクシーを駆使してなんとか観光地をまわることができました。地上を走る電車は10時ごろから少しずつ運転開始、12時近くになると間引き運転でありながらも、なんとかいつもの東京らしい光景を取り戻していました。「あぁ、なんだ、今回もそこまで大して怯えることはなかったなぁ」なんて思ったくらいです。「Shouldn’t have worried that much! Haha!」と、台風一過の炎天下でお客さんと陽気にかき氷にむさぼりついていました。
ところが、ここからが落とし穴です…! 成田空港へ向かう手段がすべてアウトになってしまうとは、いったいだれが想像できたでしょうか…! 詳しくは次に述べます。
エアポートバスの完全運休! 羽田空港には行けるが、成田空港はアウト
筆者のお客さんは、午後5時発の飛行機で帰国するため、成田空港に午後3時に到着している必要がありました。新宿駅を午後1時ちょうどに出るエアポートバスの予約をしてあったので、バスターミナルでバスの到着をのんびりと待っていたときのことです。
突然、電子掲示板の文字が「運休」に変わりました。バス出発時刻の5分前のことです。羽田空港行きのバスには変更がないようですが、以降すべての成田空港行きは「運休」とのこと。そばに立っていたスタッフも寝耳に水だったようで、なにがなんだかわからない様子。あとでわかったことなんですが、どうも成田空港へ行くときに通る高速道路が倒木でふさがれて通行止めになっていたようなんです。これでは確かにバスを運休にせざるを得ませんね。
さあ、バスターミナルは大騒ぎです。スタッフは英語があまり達者でないようで、「No bus, no bus coming.」と行列をなす外国人観光客たちに伝えてまわっていたのですが、この表現だとうまく要点が伝わらないようで、「遅延」なのか「運休」なのかハッキリせず外国人たちはパニックになっていました。なるほど、確かにこういうときには「canceled / delayed」のひとことがパっと出るとわかりやすいのになぁと思いました。ほかの手段で空港に向かうように、との意味で、「Train please. Taxi please. No bus, no more.」なんて言っていましたね。まあ、これならバスを待ってもムダだと伝わったでしょう。
さらにバス代金の払い戻しのことを「refund(返金)」という単語でたずねられたスタッフは、まったく意味がわからない様子。ほかのスタッフも駆けつけて、「Yes, money back, later.」と返金可能であることは少なくともちゃんと伝えられたようですが、対応できる払い戻しカウンターが新宿駅の反対側出口(バスターミナルから徒歩10分)にあるということで、これはスーツケースを引きながら移動する人たちには過酷な通達です。見かねた筆者はバス会社と電話で交渉し、(通常はNGだそうですが)成田空港のカウンターで返金してもらえるように、ゴリ押しでOKを取り付けました。まわりの人たちにもその旨を伝えると、その場でちょっとしたヒーローになりました。
成田空港に向かう電車もすべてストップ!
さて、気持ちはまだまだのんびりとしていた筆者は、「バスがダメならJR成田エクスプレスか京成スカイライナーに乗ればいいや」と考えていました。いわゆる空港行きの特急列車のことです。ところがなんと、どちらも運休であることがわかりました。web検索では運休だとは出てこなかったんですが、新宿駅のJRチケット売り場でも日暮里駅の京成線チケット売り場でも、掲示板に赤く点滅する「運休」の文字に大きなショックを受けました。
さらに特急だけでなく、成田空港方面の鈍行の電車もすべて動いていないとのことで、まさに成すすべなし…! そして時間が経つごとにあふれかえる人、人、人…。駅の構内いっぱいに、満員電車のごとく人があふれているわけです。そしてその半分は外国人という異様な光景。これはもう何か夢でも見ているんじゃないかと思いました。日暮里駅というマイナーな駅がこんなに人口密度が高いなんて、この先もきっとないでしょう。
まだ気持ちに余裕がある人は、youtubeなのかfacebookなのか、現状の悲惨さを動画に撮って発信していました。テレビ局の取材班が到着する前に、現場にいる自身がいち早く発信する時代になったんだな、と思ったものです。
そうだ、乗り合いタクシーで行こう!
台風が過ぎたあとの空は、もちろん快晴です。飛行機は予定どおり飛ぶにちがいないとだれもが思っていました。実際に筆者もwebで全日空の運航案内を見たんですが、欠航や遅延の表示はされていませんでした。ですから、筆者のお客さんは飛行機に乗るつもり満々でした。またほかの航空会社も同じ事情だったんでしょう。空港になんとしてでも到着しなくてはいけないという使命感がそれぞれの旅行者にはたらいたようで、「Shall we share a taxi to the airport?」「Anyone, taxi ride together!」なんて声があちらこちらで聞こえました。
先述のとおり、高速道路が倒木の影響で封鎖されているため、タクシーで向かうにしても下道しか通れません。時間は2倍ほどかかります。そのことは旅行者たちもよく理解していたわけですが、タクシーが唯一の交通手段ということで彼らとしてもうそうするしかなかったんですね。復旧のめどが立たない電車を延々と待つよりは、少しでも動きたかったんでしょう。本来、成田空港まで京成スカイライナーが出る日暮里駅からだと、タクシー料金は15,000円から20,000円ほどします。高額ですが、それでもこれで行くしかないわけです。
旅行最終日で日本円をほとんど使い切っている外国人たちにとって、違う国の人とタクシーを割り勘にするには「どこの国の通貨で」決済するべきかが最大の問題のようでした。ヨーロッパから来た人たちどうしだとユーロでいいのですが、互いに違う通貨を使うのであれば事は単純にはいきませんよね。将来的に「通貨の枠を超えた」決済の仕組みができるといいな、とこのとき思いました。LINE Payでの割り勘機能のように、カジュアルにこういったことが同一通貨でなくても実現できるようになれば、緊急の折には必ず役立つツールになると思います。
まずは【前編】にて成田空港へ行くまでの話をお伝えいたしました。では、続きはまた【後編】で。See you again!