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日本の食文化を外国人に説明してみよう(お弁当編)

読者のみなさまにとって、「お弁当」とはどんなイメージですか? 母親が運動会の日に作ってくれたタコさんウィンナーを思い出しますか? それとも、旅の道中で車窓を眺めながら食べた絶品の駅弁を思い出しますか? しかし、「お弁当」は必ずしもノスタルジーを彷彿とさせるものとは限りません。メディア関係者が移動車の中で胃にかき込むロケ弁だって、「お弁当」なのですから。要は「portable な食事」というのが定義になります。そう、持ち運びができる食事のことです。

その①日本人気質がうまく表れているのが「Bento」

 なぜ訪日外国人に「Bento, Bento」ともてはやされるのでしょうか? 持ち運び可能な食事というだけでは、こんなにフォーカスされるわけはありませんね。理由はずばり、そこに日本人特有のこまやかさが表れているからなんです。
 まずは、作り手が栄養バランスを気に留めながら、複数種のおかずを用意することが「こまやかさ」にあたります。”丼もの”のお弁当ももちろん世の中には存在しますが、そういったダイナミックなものは広義には確かにお弁当ではあるものの、外国人が「Bento」と表現しているものはもっと狭義のものです。いわゆる、白いご飯に梅干し、卵焼きにほうれん草のおひたし、そしてメインには焼き鮭、箸休めにはお新香…。気合の入っているお弁当だと、さらに金平ごぼうやひじき煮なんかも入っていますよね。この何品にも及ぶおかずが、互いに味移りしないようにうまく敷き詰められているわけです。これって実は、結構すごいことだと思いませんか?

・Bento is a packed meal, or a portable meal. Usually people make it in the morning at home and eat it at lunch time.
(「弁当」とは詰められた食事のこと、つまり持ち運びできる食事です。たいていは朝に家で作って、ランチタイムに食べます。)
・Typical Japanese Bento is made up of several side dish items and main item, such as roasted salmon, deep-fried chicken for main.
(典型的な日本の「弁当」は、メインのおかずといくつかの副菜で成り立っています。メインには、焼鮭や鶏のから揚げなんかがありますね。)

その②愛情のバロメーター?

 実は日本人のお弁当文化というのは、外国から移住してくる母親にとっては恐怖の対象であるようです。日本のほとんどの幼稚園では、保護者による手作り弁当を児童に持参させることが必須となっています。ときに給食デーも設けられているようですが、基本的には「心のこもったお弁当で、あたたかい食体験を」という明文化されていないスローガンのもと、忙しいフルタイムワーカーの母親たちの首は確実に締め上げられています。保育園の待機児童がいまだ多く、幼稚園に預けざるを得ない母親たちにとっては、毎日の弁当問題は想像以上に過酷なのです。
これは、あくまで portable lunch を用意せよという意味合いではありません。仮に手作りでないにしても、買ってきた総菜を弁当箱に詰め直すというひと手間をかけることが求められます。ときに無言の圧力で、ときに園規約という公式アナウンスにて。そう、たとえばこんな具合にです。「保護者が入院時などの特別な場合を除き、コンビニのおにぎりをそのまま持参するのは禁止」などと言われるんです。割り箸や使い捨てフォークなんてもってのほか、やはり子供用カトラリーや布ナプキンはどんなときも用意してやる必要があります。そうでないと、愛情不足に映るようです…! 手間を省くために食事を手作りせずに外で調達するわけですが、結局これだと手間の1/2しか省けていませんね。 昨今の食育ブームも手伝って、食体験と児童の心の成長の関連付けには恐ろしいものがあります。ピーナツバターを塗った食パンにバナナ1本をシンプルに紙袋に入れているだけのアメリカ人のランチ事情からすると、日本のこの手作り弁当文化の圧力はとても奇異に映るようです。

・Japanese mothers tend to make a whole-hearted Bento to show their love to children.
(日本人の母親たちはわが子に愛情を示すため、心を込めた「弁当」を作る傾向にあります。)
・Some kindergarten have a policy that they don’t allow a quick meal such as rice balls with the plastic films on.
(幼稚園によっては市販フィルムがついたままのおにぎりは持参不可などの規則を定めています。)

その③弁当箱も多種多様

 そうは言っても、どこの家庭でもいわゆる「Bento」が毎日作れるわけではありません。専業主婦率も減っているこの日本では、広義の「お弁当」としての portable meal が作り手に好まれる傾向にあります。
白いごはんに具材たっぷりのシチュー、こういったシンプルな組み合わせだとジャータイプの器がいいですね。おかずを何品も作らなくてよいので、忙しい人にはピッタリです。2015年ごろから流行し始めた「おにぎらず」なんてものも、工夫が光るメニューです。ご存じのようにこれはおかずとごはんが合体している食べ物ですが、おにぎりのように「握らない」のがポイントです。「おにぎらず」専用の作り型だって販売されています。時代とともに、弁当グッズにも多くのバリエーションが見られるようになりました。
一方で、曲げわっぱなど日本古来の伝統的な弁当箱も好まれ、通気性にすぐれているだけでなく、日本らしいビジュアルの演出に役立っています。漆塗りの弁当箱なら、全体が茶色になりがちな煮物も、とても食欲をそそるものに映りますね。

・A new wave has come these days — effort-saving Bento is highly welcomed by full-time workers. “Onigirazu“ is a new menu for Bento as it doesn’t require you to make several items, thus there’s no need to pack separately.
(時代の波も変わりました。手間をかけない「弁当」がフルタイム労働者には重宝されています。「おにぎらず」という弁当向けの新しいメニューは、複数のおかずを作る必要もないですし、詰めるのも別々にしなくていいんです。)
・On the contrary, traditional Japanese Bento goods keep selling well. Some are made from bamboo, others are coated with lacquer. Those items make Bento look more appetizing.
(それとは対照的に、伝統的な日本の「弁当」グッズの売行きは依然としていいんです。竹でできているものもあれば漆塗りになっているものもあります。こうしたグッズでもっとおいしそうに見えるんですよ。)

あらためて「お弁当」をとらえ直してみると、新鮮に感じませんか? オフィス街で買うコンビニ弁当も、イベントで出される関係者用の仕出し弁当も、愛する人のために握るおむすびも、あれもこれも「お弁当」です。
食中毒の予防だけでなく、味移りや栄養の偏りも防ぎながら、全体の色どりまで気を配って提供するのが、日本が宿すBento精神です。作り手の手間と愛情、これぞまさに日本人らしさではないでしょうか。作り手は大変かもしれませんが、忙しい現代人もほんのときどきはこうした手間をかけたBento を作り、次世代に伝えていってほしいと思います。

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