前回の記事では、2014年から実施されている新試験「TEAP」= Test of English for Academic Purposes(通称ティープ)の概要について述べさせていただきました。試験の実施対象は大学受験を志願する高校生です。このテストで好成績を収めれば大学入試でのさまざまな優遇措置があることはすでに述べたとおりです。
さて、ちょうどご自身が高校生の場合、あるいはご親戚やお知り合いに高校生がいらっしゃる場合、「へぇ、こんな試験があるんだ」というザックリとした情報だけつかんだところで、実際に「受けてみよう」というほどモチベーションは正直わいてこないと思います。はっきり言って謎のままでしょう。今回は少し掘り下げて、具体的にどんな試験なのかをみなさんに共有してまいります。
受けてどうなる? 英検とどう違う?
英語の実力判定試験としては、当たり前ですがどちらを受けてもきちんと役割は果たしてくれます。その目的だけに限って言えば、安価な英検のほうを受けるべきです。どちらも4技能試験の性質を備えており、リーディング・リスニング・ライティング・スピーキングのそれぞれのパーツに分かれて出題されます。
大学入試での選抜要素として参考にされるのは英検もTEAPも同じですが、上位大学を第一志望としているのであれば、TEAPを受験して好成績を収めることに努力を向けるのが今のところ世の中の主流になっています。特に、学校現場では手落ちになりやすいライティングとスピーキングの実力判定にTEAPは重宝され、自分の力が大学入試という場でどの程度競争力を持っているのかをみることができます。
さて、ひとくちに「4技能試験」とくくることはできますが、そこにはちょっとした差があります。英検の場合は1次試験において3技能(リーディング・リスニング・ライティング)を判定し、その1次試験に合格した者だけが2次試験であるスピーキングテストに進むことができます。TEAPのほうは純然たる4技能試験であり、1日ですべて4技能が問われるような過密スケジュールのため、より集中力と体力を要します。TEAPは午前のリーディングとリスニング、午後のライティングとスピーキングに分かれています。受験者は弁当持参で受験者控室で食事休憩をとるか、近場に外食に出かけます。余談ですが、途中でギブアップして夕方のスピーキングテストに現れない受験者もちらほらいるようです。
TEAPのほうが問題数が多い、試験時間も長い
英検の2級を例にとると、1次試験の実施時間は110分です。準1級であれば120分です。2次試験の面接はどちらも10分程度となっています。それなりに疲労をともなうものですが、TEAPのほうはこんなものではききません。
TEAPの4技能合計時間は200分で、なんと3時間を超えてきます。午前のリーディングが70分、リスニングが50分、午後のライティングが70分、スピーキングが10分という内訳です。休憩時間と会場までの移動時間を加味して、これはもう1日がかりの大仕事です。特にリスニングが50分というのが、集中力の持続がかなり困難になるでしょう。
さて、問題数のほうもTEAPはずいぶん多く、TEAPは英検のようにたくさんの受験者に「合格してもらう」ための運営方針ではありませんから、実力差が如実に出るように「どんどん」と、「ジャンジャン」と容赦なく問題が襲い掛かってきます。リスニングは後半戦で「置いて行かれてしまった」という感想を抱く受験者が多く、またライティングについては70分ということでこれはもうちょっとした論文クラスです。上級者が団子状態で固まってしまわないように、つまり上級者どうしのシビアな闘いの結果が見られるように綿密に設計されている試験なのです。
つまり、TEAPは重たくツライ試験なんですね?
そう言ってしまうと語弊があるようですが、英検に比べたら体力の面で過酷であることはまあ間違いありません。しかし、TEAPは英語の上級者にとっては手ごたえのある「よい試験」であり、このくらいハイレベルな闘いの舞台があったほうが自分の伸びしろも発見しやすいでしょう。
たとえば、センター試験では満点をとれる実力の高校生がわんさかいます。実際の試験で満点者が少ないのは、ずばりミスをするからです。センター試験では文法問題にさほど難しいものは出ませんし、読解のパッセージにおいてもリスニングスクリプトにおいても、それらは誤解のしようのないストレートな文構成です。つまり、上級者ならだれしもが満点を目指せる出題内容なのに、そして時間も余るため自分の答案を見直せるというのに、どこかでミスをしてしまうから180~190点の得点者がわんさかといるのです。これだと「ミスをしない」ことが大前提となる試験であり、向きとしてはやや消極的なんではないでしょうか。
もし、センター試験で160点以上をとれる実力があるなら、ぜひ一度TEAPにチャレンジしてみてほしいと筆者は強く思います。TEAPでは英検準1級レベルの問題が数多く、まるで空爆のようにジャンジャン襲い掛かってきます。試験時間も余らないはずです。こんな最高の上級者専用の舞台は、ぜひ恐れずにトライしてみるべきだと思います。(逆に、英検2級にかろうじて合格するレベルであれば、TEAPに挑戦するのはまだ早いかもしれません。)
TEAPの結果はどんなふうに出るの?
4技能それぞれが100点満点です。見事に4技能の平等評価です。この点、多くの受験者がリーディングで稼いで、ライティングやスピーキングのほうでは点数が低い傾向が見られるのは、これまでの日本型の英語教育と照らし合わせると疑問の余地がありません。リーディングとリスニングはマークシート形式で回答するので、ほかの2技能に先んじてwebで結果を見ることができます。採点が大変なライティングとスピーキングは、結果の開示に2週間ほどの開きがあります。4技能の結果が出そろった時点で成績表が送付されるのですが、この成績表こそが大学入試で「TEAP利用型入試」を志す高校生が大事に扱わなければいけない原紙となります。
特筆すべきなのは、各技能の100点満点のスコアが、同時に「CEFR」のスコアに変換されて示されるということです。この「CEFR」については次項でご説明いたします。
「CEFR」ってナニ?
まず読み方ですが、「セフール」と言ったり「セファール」と言ったりします。関係者のあいだでも統一がないようです。この「CEFR」は世界共通の言語運用力の指標で、正しくは「ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages)」と言いますが、要は英語に限らず特定の外国語がどのくらい使えるかをはかるものだと思っておいていただければ大丈夫です。以下の6段階に分かれています。
・C2 母語話者と遜色のない熟練者
・C1 優れた言語運用能力を有する者・上級者
・B2 実務に対応できる者・準上級者
・B1 習得しつつある者・中級者
・A2 学習を継続中の者・初級者
・A1 学習を始めたばかりの者・初学者
*英語について言えば、日本の高校生はほとんどが「A2」に属していると言われています。
高校生で「B2」評価なら期待できる英語人材
わかりやすく英検とレベル比較をしてみましょう。おおむね英検2級合格レベルが「B1」で、準1級合格レベルが「B2」です。高校生の時点で「B2」評価を取得していれば、日本からの留学生を受け入れる立場としても「この生徒なら英語で進める講義について来ることができるだろうし、レポート提出も英語で難なくできるだろう」と安心感を抱きます。英検はどうしても配点がリーディングに偏りがちで、いくら4技能試験といってもそこに4技能の平等はありません。英検準1級の取得者よりも、TEAPで4技能すべて「B2」評価をたたき出す生徒のほうが、よほど有望だと感じます。
さらに、高校生で4技能すべて「B2」評価を得られるほどの努力家であれば、今後も同じように研鑽を積むことができそうな人物像が描けます。帰国子女でもなんでもないのに、これだけの実力を国内での勉強で身につけてきたならば、将来的に英語を武器に世界中で活躍できるビジネスパーソンになることは十分に可能でしょう。
ちなみに、「C2」というのは本当にペラペラの部類です。英語で仕事がこなせるようになるのが「B2」あたりからです、たとえば筆者は英検1級取得者で外国人観光客に向けて通訳ガイドという仕事をしていますが、それでも評価は「C1」とやや苦しいところであります。「C2」を目指すというのはどの言語の学習者にとっても究極の目標ではありますが、高校生で「B2」を取得したならば将来的に「C2」への到達は十分に見込めるのです。「C2」ばかりで凌ぎを削っている通訳や英語リポーターなんて職業も、夢ではありません。
いかがでしたか? TEAPという試験にご興味を持っていただけましたか? 英語がデキる高校生は、どんどんハイレベルの試験に挑戦して、さらに実力UPをはかっていってくださいね。本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。