こんにちは。今回は、受験年齢層に対象を特化した英語試験、「TEAP」(ティープ)についてお話ししたいと思います。来たる大学入試の大改革を見据えて、どのようにこの試験が誕生したのか、どんな内容の試験なのかを一緒にみてまいりましょう。
誰のための、どんな試験?
「TEAP」というのは、試験の正式名称(Test of English for Academic Purposes)の頭文字です。「ティープ」と読みます。大学受験をする高校2年生以上ならびに浪人生のために開発された国産の試験で、受験年齢が極めて限られているというのが最大の特長です。主には日本の高校3年生が受けます。ですから、海外のビジネスシーンでTEAPのことを知っている人はほとんどゼロと言ってもいいくらいです。(社会人にはTOEICやIELTS、TOEFLのほうがよほど有効で、仮にTEAPで好成績を残せたとしても評価はほとんどされないでしょう。)
さて世の中にはさまざまな英語試験が存在していますが、TEAPは大学教育や留学に焦点を当てた試験構成になっています。今や日本の大学も英語で講義をおこなうところが増えてきました。その授業についていけるだけの素地を問うたり、英語での発表力を問うたりするのが目的です。いわゆる「アカデミック」な場面に限っての英語運用力をみるということです。留学を視野に入れている高校生ならば、なおさら注目すべき試験です。
受験するには、どうやって?
ペーパー試験の通常バージョン(いわゆるPBT=Paper-Based Test)と、パソコン受験バージョン(CBT=Computer-Based Test)があります。それぞれ年3回実施されるのですが、PBTの場合は6月・8月・10月に実施、CBTの場合だと6月・9月・12月に実施されます。午前も午後も拘束されるので、1日がかりで試験を受けるというイメージですね。一番長い人だと、8時間ほど会場内で過ごすことになります。
受験の申し込みはwebサイトからのみ。新しく開発された試験ということもあり、英検のように書店カウンターでの申し込みなんて古風なことは一切やっていません。まあ、これも昨今の高校生のデジタルリテラシーを鑑みれば当然でしょう。なお支払いには複数の選択肢が示されており、クレジットカードのほかにもコンビニや郵便局の支払いも可能です。
価格は4技能すべてコミコミの15,000円(税込)。英検の倍ほどかかりますが、ほか英語試験との比較ではまあふつうの価格帯といったところでしょうか。
傾斜なき4技能の平等配点
これまで日本型の英語教育を受けてきた世代にはとても信じられないことなのですが、TEAPでは英語4技能(読む・聞く・書く・話す)がそれぞれ同一100点配点、計400点満点です。これまでの日本人英語学習者は、文法や長文読解が得意でもまったく話せない、というのが典型例です。その実情をふまえると、「読む」と「話す」の点数比重が同一なのはゆゆしき事態です。あわてて英会話のほうも手当しなくてはいけませんね…! この狙いもあって、このTEAPという試験では高校生相手でも容赦なく4技能平等に問うてきます。学習実態に照らし合わせるとシビアですが、英語教育の大改革と言われるゆえんです。
センター試験では、リーディング(200点)+リスニング(50点)、そして英作文やスピーキング問題は課されないので、センター試験は「2技能試験」です。それでも、リスニングの配点のあまりの小ささから、専門家のあいだでは「1.5技能試験」だなんて長らく揶揄されてきました。これまでのスタンダードと比べてTEAPがいかに異様であるかは、おわかりいただけたかと思います。
TEAPが生まれた背景
センター試験とは別に、今度は大学の個別入試問題に話を移しましょう。入試の英語科目はほとんどの大学において「筆記試験」という形態をとっており、「英語面接」を課すところはごく一部を除いてありませんでした。筆記試験の内容は、リーディング(読解)だけのもの、あるいはリスニング(聴解)を含むもの、さらにはライティング(英作文)を含むものとさまざまなものが存在し、1技能から最大3技能まで問えるようになっています。しかし実際には、3技能をきちんと問うてきた入試問題というのは非常に稀有な存在です。あくまで試験実施側の立場からの話になりますが、3技能試験を作成し、それを採点するのはとても大変なことなのです。さらに1技能を追加して「英語面接」(=スピーキング試験)を実施するとなると、これはもう大学の入試課としては想像を絶する負担なのです。
これを大学それぞれの負担にしたままでは、どの大学も「思い切って資金と人材を投資して4技能試験に切り替えていこう!」なんて決断はつきません。それはつまり、いつまでたっても日本の大学入試シーンは変わらず、日本人の英語力もあまり伸びないという結果を傍観するに等しいということです。
そこで、手を挙げたのが公益財団法人日本英語検定協会です。そう、あの英検を運営実施しているところです。上智大学との共同プロジェクトに5年も取り組み、ついに2014年に第1回目のTEAPが実施されました。そこには、「日本の英語入試を変える!」という大義があります。大学独自問題として4技能試験が実施されるのはもう何十年待っても期待できないことだと悟り、試験開発に着手しましたというわけです。「統一試験」としてTEAPが世の中に広く認知されれば、日本の大学受験層の英語力の底上げが可能になります。高校生のうちから読み書きだけなく、「話す」ことにも主眼を置いた受験勉強ができることは、間違いなく国にとっても前進です。多くの高校生に受験の機会を促すよう、TEAPの事務局は各大学に「おたくの大学の英語試験問題の代わりに利用してはいかがですか?」なんて、利用拡大のはたらきかけをしています。
えっ? 入試の代わりになるってほんと?
そうです、これこそが触れるべきポイントです! 大学の一部では、入試の英語科目の代わりにこの試験の結果を利用できるのです。利用のしかたは大学によって、さらに言えば同じ大学でも学部によって異なります。志望大学が「TEAP利用型入試」という枠を設けているのかどうか、調べればすぐにわかります。人気の早稲田大学・上智大学はもとより、関西勢でも立命館大学・関西学院大学、それに国立大でも筑波大学など、利用大学は年々増えています。
たとえば、TEAPで一定の成績を残せれば、ある大学では英語の筆記試験を免除して大学独自試験の英語科目2次試験である英語面接のみを受ければよい、という例があります。または、大学独自問題の英語試験の○○点に換算する、なんて例もあります。ほかには、英語試験科目それじたいを免除してくれるケースだってあります。まるごと免除されるんだったら、前もってTEAPを受けない手はありませんね!
年に3回実施されるこのTEAPという試験対策にフォーカスして、他教科より先立って英語の勉強をゴリゴリと進めておけば、冬の追い込み時期には国語や日本史などの他教科の勉強に集中することができます。情報通の高校生ならば、「高2からTEAPを受験可能で、そのスコアは2年間有効」だということを知っています。ゆえに、なるべく英語に焦点を合わせて早い段階でTEAPの好成績をゲットするような動きをとる賢い高校生も出てきました。大手塾でもTEAP対策講座が春夏に大盛況で、そこで納得するスコアを残せた生徒は冬期講習に他教科に集中を切り替えるなんてパターンが見受けられます。
受験はシビアな世界です。インフルエンザや胃腸炎が猛威をふるう1月や2月のたった1日にフォーカスを合わせ、そこで結果を残さねばなりません。英語だけでも、先行して年に3回の試験にチャンスが分散できるのは、受験生にとってメリットと言ってよいでしょう。まして高2から受験可能なTEAPですから、早くスタートを切るに越したことはありません。
上位層必見! こまかい点数刻みで、よりリアルな実力把握
英語が得意な生徒にありがちなのが、「センター試験」レベルでは簡単すぎて、上位層どうしの戦いの舞台がないことです。全員が難関大学の合格者である超進学校の場合は、ほとんど全員がセンター試験英語では210/250点くらいとるのではないでしょうか。基本的な問題が多く出題されるので、1つのミスが命とり、そして同じ高校内でも同一点数の生徒が何十人もいるわけです。英検準2級レベルの問題もセンター試験には多く出るため、「解けて当たり前」という意識で臨む試験だということです。精神的にはあまりイージーなものではないでしょう。
彼らを細かく序列づけるものがほかにあるとすれば、それはTEAPの結果を比べるのがよい方法だと筆者は思います。上位層だからこそ、TEAP受験は絶対におすすめです。英検に比べても試験時間が抜群に長いですから、問題数も倍ではきかないくらい多く出題されます。このため、1つのミスが命とり、のようなじっくり型の神経消耗戦ではなく、100本ノックのように「ジャンジャン」「打たれながら」解いていくことができます。英検準1級ほどの問題レベルですから、高3生にとっても「少し難しいな…」と思うレベルものものがすごい勢いで空からジャンジャン降って来るイメージですね。卓球やテニスのラリーというイメージでも適確かと思います。
語彙力も速読力も精読力も、如実に結果に出ます。英作文も書く時間が全然足りません。リスニングも容赦がありません。スピーキングも、与えられたテーマについての即興1分間スピーチなど、手ごたえは抜群です。高校生にとってTEAPは、1日かけての非常に目まぐるしい上級試験です。時間が余ってしまうセンター試験とは異なって、TEAPは選ばれし者のための選ばれた戦いの場と言ってもよいでしょう。準備不足のままTEAPを受けると精神的なダメージは大きいでしょうけれど、上位層のなかでも自分はどのくらい英語ができるのか?? と一度でも思ったことがある高校生ならば、ぜひ受けてみてほしい試験ですね。
日本の大学入試改革の波に乗って、英語にも大きなメスが入れられつつあります。間違いなくTEAPという試験はその潮流の目です。少しでもご興味を持っていただけたらうれしいです。