揺れるアイルランド

アイルランド
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海外の出来事についても、テレビや新聞で報道されているため、簡単に知ることはできます。しかし英字新聞などで、英語で表現されている内容を読むことによって、よりその実像に迫る事ができると思います。
ということで、本日取り上げる海外の出来事は、「揺れるアイルランド」についてです。
先日アイルランドでは、人工妊娠中絶の可否を問う国民投票が行なわれ、圧倒的な賛成多数で、憲法上の人工妊娠中絶禁止規定を撤廃することになりました。
また、アイルランドでは3年前には同性婚についての国民投票も行なわれ、その結果、現在では憲法によって同性婚が認められています。
アイルランドでは、昨今大きな社会変革が続いているようです。今回は、アイルランドの人工妊娠中絶の可否をめぐる国民投票についての毎日新聞英語版の記事を読んでみたいと思います。

英字新聞を読むことで、日本語ではくみ取ることができなかった実像に迫り、アイルランドの人々の思いに少しでも近づいてみることができればと思います。あわせて、記事内にて使われている英語の表現についてもいくつか取り上げてみたいと思います。

Some Irish Catholics worried, dismayed after abortion vote - The Mainichi
DUBLIN (AP) -- Irish Catholics attending Sunday Mass were disappointed with the result of a referendum in which voters opted to legalize abortion and

面白い見出し

Some Irish Catholics worried, dismayed after abortion referendum
May 27, 2018
「アイルランド、中絶合法化の国民投票結果を憂慮したカトリック教徒はわずか 
2018年5月27日記事」

普通なら、『中絶合法化となる』とか『賛成派の勝利』とかいう見出しになるような気がしますが、そうはなっていません。この結果を心配している人あるいは落胆している人はいないこともない(some)という淡々とした表現です。当然の結果であることを示したいのだと思います。

記事の翻訳

 Irish Catholics attending Sunday Mass were disappointed with the result of a referendum in which voters opted to legalize abortion and think it reflects the weakening of the church — a situation that was unthinkable in Ireland a generation ago.
「日曜のミサに参加したアイルランドのカトリック教徒は有権者が人工妊娠中絶を合法化することを選択した国民投票結果に失望し、それは教会の弱体化を反映するものであると考えている。そんな状況は一世代前には考えられないことであった。」

さっそく見出しに取り上げられている、『何人かのアイルランドカトリック教徒』が登場しました。このように考えている人がいないこともないということを紹介しています。

There was no mention of the referendum during the sermon at St. Mary's Pro-Cathedral, but it was weighing heavily on the minds of some worshippers as they left the Mass in central Dublin.
「セントメリープロカセドラルでの説教ではその国民投票には言及がなかった。しかしそのダブリンの中心部でのミサを去るとき、何人かの参拝者の心にはその国民投票の結果が重くのしかかっているのであった。」

Ireland voted by a roughly two-to-one margin Friday to end a constitutional ban on abortion, and the Dail, Ireland’s parliament, is expected to approve a more liberal set of laws governing the termination of pregnancies.
「金曜日に投票された憲法の人工妊娠中絶禁止条項を廃止するための投票はおよそ2倍の差がつく結果となった。アイルランド議会(the Dail)は妊娠中絶に関しての今よりも緩やかな法律の制定を期待されている。」

a roughly two-to-one marginは直訳しますと、「およそ2対1の差」ということです。

Some worshippers said the overwhelming victory of abortion rights activists seeking the repeal of the Eighth Amendment of the constitution reflects a weakening of the Catholic Church's historic influence and fills them with dread for Ireland’s future.
「何人かの参拝者によりますと、憲法修正第8条の廃止を求めていた人工妊娠中絶の権利獲得の活動家の圧倒的な勝利は、カトリック教会の由緒正しい影響力が弱まったということの反映であり、アイルランドの将来が不安で一杯だ、とのことです。」

the Eighth Amendment of the constitutionは憲法修正第8条を意味し、ここに人工妊娠中絶の禁止が規定されていたのです。

“I think the ‘yes’ vote was an anti-church vote,” said Annemarie McCarrick, referring to the “yes” vote in favor of ending the constitutional ban.
「アンネマリー・マッカリックは、賛成票とは憲法上の禁止規定を廃止させることを意味するが、それはまた反教会の票であったという。」
 
The 52-year-old lecturer said on the cathedral steps that a series of sex abuse scandals had undermined the influence of the church in Ireland. She said the church had in recent weeks taken a “quiet” stand against repeal, but hadn’t been able to sway people.
「彼女、52歳の大学講師は、教会の階段でこういった、連続した性的虐待事件がアイルランドの教会の影響力を傷つけた。教会はこの数週間の間、この国民投票についてあえて"無言"でいたが人々を動かすことはなかった。」

「連続した性的虐待事件」とは21世紀になってから発覚した、カトリック教会における聖職者による子どもへの性的虐待事件のことです。アメリカでの訴訟に端を発し、アイルランドでも同様の問題で裁判が行なわれる事態となっていました。ローマ教皇は犯罪行為が行なわれていたことを認め、当事者が法の裁きを受けるように求めたのでした。

“I am religious but the church has definitely lost influence here because of the scandals,” she said. “The people will not take direction from the church anymore. It’s hard for the church to have credibility.”
「私は敬虔な信者だが、スキャンダルにより教会はここアイルランドでの影響力を確実に失った。人々はもう教会のいうことなど聞かない。教会が信頼を取り戻すことは難しいのです。」

この発言により、いかにこのスキャンダルがカトリック教徒にとって大きな問題であったかということが分かります。教会の教えにはもう拘泥せずに、社会は変革していくと多くの人が考え始めたということだと思います。

Recent census figures show a small decline in the number of Catholics in Ireland, but it remains by far the dominant religion.
「最近の調査結果はアイルランドのカトリック教徒数がわずかながら減少していることを示すが、いまだに圧倒的多数であることは変わらない。」
Frank Gaynor, a 75-year-old retiree, said after the Mass that he never imagined the vote in favor of abortion rights would be so lopsided.
「75歳のフランク・ゲイナーはミサのあと、人工妊娠中絶賛成にこんなに多くの票が集まり勝利を納めるとは想像できなかったと語った。」
 
He said he was troubled by the way the “yes” campaign used the case of Savita Halappanavar, a 31-year-old dentist who died of sepsis during a prolonged miscarriage after being denied an abortion in Galway in 2012, to drum up support for repeal.
「サビータ・ハラパナバーのことを引き合いに出した賛成のための運動に困惑した。彼女は2012年にゴールウエーで人工妊娠中絶を拒絶されたのち堕胎に時間を要し敗血症で死亡した31歳の歯科医だった。」
 
“I was disappointed to see the tragic death of Savita being shamelessly used as an excuse for introducing abortion into a country,” he said. “That was a sepsis issue that was mishandled. Not an Eighth Amendment issue.”
「彼は、人工妊娠中絶を導入するための恥知らずな口実にサビータさんの悲劇的な死を利用していることに失望したと言うのです。あれは敗血症の治療のミスであって、憲法修正第8条の問題ではないと。」
 
He felt alienated by the campaign: “It’s extraordinary the way the campaign focused so much on ‘Me, me, me,’ the rights of the mother, and very little mention of the unborn child. That was sidelined.”
「そのキャンペーンには違和感を覚えたと。すなわち異常なほど母親の権利のことばかりを訴え、生まれてこない子どもについてはほとんど言及されなかった。脇に追いやられていたと。」

従来の教会の、生まれてくる子どもの権利を尊重するという教えに基づいた発言も記事にしています。

With the vote decided, attention is turning to parliament, which will make new laws to govern abortions.
投票結果によって、注目は議会に集まっている。議会が人工妊娠中絶についてどのような新しい法律を制定するかということに。

ここでは関係代名詞の継続用法が使われています。
継続用法の場合は関係代名詞以下は日本語に訳す場合も後ろに記述するほうが、英語のニュアンスを伝えられます。ですから、この場合は
「新しい法律を作るであろう議会に注目が・・・」ではなく、
「注目は議会に集まっている。その議会が新たな法律を・・・」ということになります。

The referendum vote ended a harsh anti-abortion regime enacted in 1983 that required doctors to regard the rights of a fetus, from the moment of conception, as equal to the rights of the mother.
「国民投票は妊娠のその時から母親と同等の権利を胎児にも認めるということを医師に求めていた1983年からの妊娠中絶を禁止するという過酷な枠組みを終わらせた。」
In practice, it meant Irish women had to travel abroad for terminations.
「現実問題として、アイルランドの女性は中絶手術のためには海外へ渡航するほかなかった。」

itは「1983年からの妊娠中絶を禁止するという過酷な枠組み」を意味します。
terminationsは直接的には妊娠を終わらせるということ、人工妊娠中絶手術のことです。

The nationwide rejection of the amendment represented a growing tolerance on social issues in the traditionally Roman Catholic country.
「国家として中絶禁止を撤廃するということは伝統あるローマカトリックの国における社会問題に対しての寛容さの拡大を象徴するものだった。」

the traditionally Roman Catholic countryとはすなわちアイルランドを指しており、厳格なカトリック教国において、教義を超えた社会的な寛容を許容するようになった、という大きな変化を示しています。

Prime Minister Leo Varadkar hailed the vote as bringing a new era to Ireland.
「首相のレオ・バラガーはこの投票結果はアイルランドを新しい時代へ導くものだと絶賛した。」

ここでは、hailという動詞、「歓呼して迎える」を使用し、非常に喜びあふれているという状況を表しています。

He said it will be remembered as “the day Ireland stepped out from under the last of our shadows and into the light. The day we came of age as a country. The day we took our place among the nations of the world.”
「アイルランドが日陰から日の当たるところへ歩みを進めた。国家として成人した日となった。世界の国々の中に自らの場所を獲得した。このような日として記憶されるであろう。と首相は言います。」

ageは成人を意味します。Legal ageと表現することもできます。
人工妊娠中絶を禁止していたことが、いかに時代遅れであったか、世界基準からはずれていたか、ということを表明しています。

His government will propose that abortions be permissible in the first 12 weeks of pregnancy.
「政府は妊娠12週までの人工妊娠中絶を認める法案を提出する。」
 
It is not yet clear what strategy abortion opponents will use in parliament in light of the unexpectedly large vote in favor of repeal. Some opposition figures have indicated they won’t block legislation because they must respect the public will.
「人工妊娠中絶反対派が予期せぬほどの大差となった投票結果を受けて議会においてどのような戦略を打ち立ててくるのかは明らかになっていない。
反対派の何人かは民意を尊重するのは当然として、法案成立を妨害しないということを示していた。」

In light of は何かに照らして、何かを反映してといった意味になります。

The decisive outcome of the landmark referendum was cast as a historic victory for women’s rights. Exit polls indicated that the repeal was endorsed in urban and rural areas alike, with strong support from both men and women.
「重大な意味を持つ国民投票のこの明白な結果は女性の権利の歴史的な勝利の性格を有していた。
出口調査では中絶禁止規定の廃止は都市部でも地方でも同様に支持されており、また男女ともに強く支持していた。」
 
The decisive outcome of the landmark referendumこの表現はこの国民投票及びその結果がいかに重大なものかを示しています。
内容的には the result of the vote, the conclusion of the referendum ということですが、decisive outcome, landmarkといったおおげさな表現で、強調しているといえます。
この記事の記者あるいは編集者としても一番強調したいくだりなのだと思います。
 
Backing for repeal was highest among young voters, including many who returned from jobs or universities in continental Europe to vote, but was also high among every age group except those 65 or older.
「大陸から投票のために戻ってきた労働者あるいは学生を含めて、廃止の支持が最も高かったのは若い投票者においてであったが、65歳未満の有権者においても総じて賛成の比率は高かった。」
 
Since 1983, the Eighth Amendment had forced women seeking to terminate pregnancies to go abroad for abortions, bear children conceived through rape or incest, or take risky illegal measures at home.
「1983年以来、修正憲法第8条は妊娠中絶のためには海外への渡航を余儀なくしていた。レイプや近親相姦による妊娠だったとしてもである。あるいは危険を覚悟で自宅での違法な措置をとらざるを得なかった。」

この最後のセンテンスは訳すにはすこし難しい構造になっています。
動詞はhad forcedで、その目的語はwomenです。
womenの後ろにwho wereが省略されていて、pregnanciesまでがwomenの修飾節です。さらにbearとtakeの前にあるべきtoも省略されています。
ですから分かりやすくしますと、
・・・had forced women to go ・・・, to bear・・・, or to take・・・
となり、この部分を直訳しますと、
「・・・女性に海外へ行くこと、子どもを出産すること、あるいは違法な措置をとることを強いた」ということになります。

同性婚合法化の規定

アイルランドでは、3年前には同様に国民投票によって、同性婚が合法化され、憲法に規定されました。規定されている条文は次のとおりです。

Marriage is recognised irrespective of sex of partners.
「結婚は当事者の性別を問わない」

recognisedは~と認識されるという意味です。
irrespective of は~に関係なくという意味です。
irrespective of ageであれば年齢に関係なくという表現になります。
直訳しますと、「結婚は相手方の性別に関係ないものと認識されている」となります。

この規定に関しても、教会は反対を表明していましたが、国民は教会の意向には従わなかったのでした。大きな社会変革のひとつであったのだと思います。

参考までに、同性婚を認めていない日本の憲法の結婚に関する規定の英訳を見てみたいと思います。

日本国憲法第24条
婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
Marriage shall be based only on the mutual consent of both sexes and it shall be maintained through mutual cooperation with the equal rights of husband and wife as a bases.
With regard to choice of spouse, property rights, inheritance, choice of domicile, divorce and other matters pertaining to marriage and the family, laws shall be enacted from the standpoint of individual dignity and the essential equality of the sexes.

まとめ

アイルランドの社会的変革に関するジャパンタイムズの記事をご紹介しました。
海外の出来事に関して、英語での表現に触れることで、より一層理解を進めることができるのではないかと思います。
英語の能力の向上にもとても役立つことになると思います。
出来事の実像にも迫ることができると思いますので、ぜひ今後は英字新聞などを手に取ってくださいね!

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