揺れ続ける国際情勢。
どこまでがストーリーでどこからがアドリブなのか分からなくなってしまっていますね。
会うといったり、会わないといったり。でもやっぱり会おうかなって。
そんなアメリカと北朝鮮ですが、先日、米朝首脳会談を終えました。首脳会談に至るまでには、紆余曲折がありました。例えば、5月24日にアメリカ合衆国ドナルド・トランプ大統領から北朝鮮金正恩委員長へ書簡を送りましたが、何が書かれていたのでしょうか。テキストはCNN Web版のものを使用しました。英語の書簡を一読してみてください。
President Donald Trump’s letter to Kim Jong Un canceling the summit
直訳
英文を読まれた方はもうおわかりでしょうけれど、かなり平易な英語ですよね。
日本の教科書的には高校生程度だと思います。
つまり、「十分分かりやすく理解できるように書いてやったぞ。何をいいたいのかは伝わったな。」という意図が伺えます。もちろん大統領が自分で書いたわけではなく、修辞学のプロである広報担当官が書いたわけですが。
朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長 金正恩閣下 親愛なる委員長 両国がかねてより念願していた、6月12日シンガポールにて開催予定の首脳会談の実施のための、最近の交渉、議論に対する、貴殿の時間、忍耐そして努力に敬意をこめて多大なる謝意を表したい。 我々は北朝鮮からその会談は要請されたと聞いていたものだが、しかしどうもそれはすっかり思い違いであったようだ。私はそこでの会談を大いに期待していた。 残念ながら、目下のところ、貴方より直前に示されているとてつもない怒りやむき出しの敵意の表明を目にすると、長きに渡って計画がすすめられたこの会談を行うのは不適切であると思わざるを得ない。従ってこの書簡において、両国にとっては利益となりしかし世界にとっては損失となるが、シンガポールにおける首脳会談は開催されないことを通告する。 貴殿は核能力に言及するが、しかし我が方のものは強大かつ強力であり、私はそれが使用されることがないことを神に祈る。 私は貴殿との間で素晴らしく建設的な対話が行われてきたと感じたが、結局のところ対話は対話でしかなかった。いつの日か、貴殿と会うことを期待している。 一方で、人質を解放してくれたことには感謝する。彼らは今家族と共に自宅にいる。それは善行であったし感謝に値することであった。 もしこの最重要な首脳会談を行うべきだと気が変わったならためらわずに電話なり手紙なりよこされたい。世界、特に北朝鮮は継続的な平和、大いなる繁栄そして幸福のための重大な機会を失った。 この失われた機会は歴史上の真に悲しむべき瞬間である。 敬具 アメリカ合衆国大統領 ドナルド・トランプ
キーワード
いくつか、ポイントとなる言葉を拾ってみました。
His Excellency
閣下と訳します。敬称です。
殿下という場合はHis Highnessとなります。陛下の場合はHis Majestyです。
相手が女性であれば当然HisはHerとなります。
また面と向かって直接呼び掛けるとなると、HisまたはHerはYourとなります。
inappropriate
不適当、不適切という意味です。
アメリカ、大統領、inappropriateとならぶと思い出すのはクリントン元大統領のことです。
彼はホワイトハウスの女子インターン、モニカ・ルインスキーとの行為に対して、全国民に謝罪しました。そのときの自分の行いは不適切であったといったのです。
たしかその謝罪ではinappropriateではなくてnot appropriateと言ったと思いますが。
まあ同じ意味ですよ。
いずれにしても、大統領が一体何をしているのかと世界中が呆れ返ったことは確かです。話が大分逸れました。
detriment
損失です。会談が行われないのは世界にとっての損失であるといっているのですね。
massive and powerful
はっきりいって、いつでもやってやるぞという意味ですね。
本気を出したら一瞬で片付くんだぞというわけです。「つけあがるんじゃねえぞ」という意味であるともいえます。
この手紙の一番のハイライトです。いいたいことはここに集約されています。
beautiful gesture
皮肉ですね。beautifulと正反対の意味が込められています。
不当なことばかりしているのにも関わらずというフレーズが省略されていると考えると分かりやすいでしょうか。
change your mind
考えが変わったらという意味です。まだ猶予を与えるということになります。
相手は本当は助けてほしいと思っているということは分かっていますからね。
考えが変わったらいってこい。そうすれば会ってやるよということなのですね。
sincerely yours
敬具なのですけれど、この場合どう訳しましょう?難しいですね。
こんなにそぐわないsincerelyも珍しい。決まり文句ですから問題ないのですが。
宛名のchairmanと差出人のpresidentにtheがついていないのは、名前と一体化しているからですね。無理やり訳せば委員長たる金正恩、大統領たるドナルド・トランプといった感じでしょうか。
意訳
こういった言葉のニュアンスも含めながら少し意訳してみましょう。
念願の会談の実現に向けて努力を続けてくれたことに感謝します。 しかしどうも思い違いがあったようですね。 最近になってそちらからひどく敵対意識を表明されていて、会談を実現するにはふさわしい状況ではなくなっています。会談は行ないません。世界中が残念に思うでしょう。 核兵器に関していえば、こちらはあなたの国を一撃で壊滅させることができますよ。 そうはしたくはないのです。 いつの日にかは会いたいものですね。気が変わったら連絡してください。 会談を行なわないことで一番困るのはあなた方でしょう。
かなりなくだけた訳ですがいっているのはこういうことですよ。
マスコミ各社の翻訳がネット上で読めますけれど、どこもちょっと苦労したと思うのは、
We were informed that the meeting was requested by North Korea, but that to us is totally irrelevant.
というところですね。
but以下、特にirrelevantの訳が難しい。無関係と訳すか、思い違いと訳すか。
もう一つは、
I felt a wonderful dialogue was building up between you and me, and ultimately, it is only that dialogue that matters.
の後半部分。結局重要なのは対話であるという訳が多いですのですが、皆さんどう思われますか。
翻訳とは
さて、このように、直訳したり、意訳したりあるいは要訳したりといろんな翻訳をすることができます。
英語を翻訳するのは英語を勉強することだけではなく日本語を勉強することにもなっています。
勉強という言葉がいやならば、日本語を磨き上げるでもいいでしょう。
実はこういうことができるのは日本人だけの特権です。(だけとはちょっといいすぎですが)
ヨーロッパの言語を使う人たち、例えばドイツ人、フランス人、スペイン人、イタリア人などにはこういったことはできません。言語が類似しすぎていて、勉強にはならないのです。
ドイツ人なんてはっきりいいますよ。
「英語はドイツ語を簡単にした言語だ」と。
大学生が小学校の教科書を読むようなものですから勉強にはならないのです。
しかし、日本語は違います。翻訳することで、英語も日本語も上達します。
日本人に生まれたことに感謝しましょう。
いろんな英語をいろんな日本語に訳してみてください。