日本大学アメリカンフットボール部がちょっと大変なことになり、注目を浴びてしまったのは記憶に新しいことと思います。そんな中、渦中の選手が日本記者クラブで会見を行ないましたね。
やってしまったことは許されないことかもしれませんが、彼の語るストーリーを聞き、同情心が沸いた人も多いかもしれません。
Japan Timesのweb版の記事から、記者会見の英訳のポイントとなる言葉を拾ってみました。
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“Nihon University player Taisuke Miyagawa says coach ordered dirty tackles” by Kaz Nagatsuka
キーワード
dirty hits
hitsはタックルを意味します。フィジカルな接触があるスポーツですから、hits自体には問題ありません。しかしルールがあり、ボールを投げたあとのクォーターバックへの接触は反則となります。ボールを投げた後のクォーターバックは無防備であり、タックルすることは非常に危険となるからです。間一髪、ボールをまだ保持しているときに飛び掛り、しかし接触が起きたときはボールを離した後だったとしても反則です。そのくらいクォーターバックはルールで守られているのです。
ビデオで何度も繰り返し放映されている今回のタックルは、ボールを離してから何秒経過していたでしょうか。ありえないタイミングでのタックルでした。そのダウンのプレーもほとんど終了しており、クォーターバックは完全に力を抜いて、無防備な状態でしたね。そこに背後から飛び掛ったのです。百歩譲って、まだクォーターバックがボールを持っているように見えたというならば、これほど問題にはならなかったことでしょう。しかし、今回のタックルはそうではありませんでした。だから、dirtyなタックルと表現されているのです。dirtyは汚れた、濁った、けがらわしいという意味です。
単なる反則ならば、unfairなタックルくらいな表現になります。
度を越しているのです。スポーツとして成り立たないような行為であったという意味ですね。
squash
相手チームのクォーターバックをつぶすの「つぶす」をこう表現しています。
ゴキブリを押しつぶすというときに使う言葉です。
ぐちゃぐちゃにする、ぺちゃんこにするというニュアンスです。レモンを搾ったレモンスカッシュのスカッシュはこの単語です。
どういう状態を示そうとしているのかがよくわかりますね。
anguish
苦悩、苦悶、心の痛みです。
相手クォーターバックへの、つぶすという表現をするくらいの攻撃を命じられたと感じ苦悩したのです。もともとの語源はラテン語ですが、angには首を絞めるという意味があります。
首を絞められているような苦痛を味わっているということになるといえるでしょう。この選手の悩んだ状態がかなり深いものであったと理解した翻訳になってます。
この記事を書いた人は、ちょっと同情していることが覗えます。
gridiron
この選手の行為とは直接関係ないのですが、これはアメリカンフットボールの競技場のことです。もともとの意味は焼き網です。
フットボール競技場にはフィールドに5ヤード単位の線が引かれていたり、また部分的にはもっと細かい平行線が引かれていたりします。それが焼き網状に見えないこともないことから、この単語が使われています。球技、特に野球の行なわれるグラウンドをballparkといったりしますが、面白い表現ですね。
今回の被害者側の当事者である関西学院のフットボールチームのHPにはアメリカンフットボールに関する論文が掲載されています。その中で、5ヤードのラインは1882年から使われて、それ以来このgridironという名前が一般的になったと記述されています。
divulge
秘密を暴く、暴露するという意味です。公表するとか明かすとかいう意味もありますね。
accuse
彼が強調したのは、謝罪の意を示したい、実際に何があったのかということを公表したい、明らかにしたいと考えたということです。コーチ陣を非難する(accuse)ということでは決してありません。しかし同時にコーチにも彼ら自身で真実を明らかにしてほしいとも語りました。微妙な言い回しではありますが、accuse しているわけです。自分はもう競技を辞める。二度とプレーしない。そんな資格はない選手だと語りました。勝つために相手選手を負傷させることを命令するコーチ陣も責任をとるべきだといっているのですね。
本人の本当の気持ちは別として、この記事を書いた記者はそう考えているのでしょう。
そう読み取れますよね。
powerhouse
名門チームという意味です。甲子園ボウル優勝21回を誇る日大アメリカンフットボール部ですから。能力豊かな、才能豊かな、実績のあるなどの意味もあります。
ジレンマ
常勝を義務づけられたチームは大変です。 勝つことを義務づけられると辛いといえます。
勝つことがすべてに優先され、選手一人一人の心などどうでもよくなってしまうからです。
選手一人一人などは勝つためのチームのパーツに過ぎなくなってしまいます。
このチームが大学のチームであるということもまた微妙なところです。プロならばこんなことは起こらない。選手は生活がかかっていますから、危険なプレー、ダーティヒットなんかをすれば、追放処分になりかねないということを理解していますからね。そして選手同士お互いに負傷は絶対避けるべきだと考えています。仮に選手が負傷してしまい、搬送車両でフィールドを後にするときは、特に敵側の選手が、その選手に触れそして跪いて一日も早い回復を祈ります。
アメリカのNFLでのお話ですが。
今回の件はどうすればよかったのでしょうか。
記者会見では、大学に入ってフットボールを面白いと思えなくなってきたとコメントしていました。このへんが一番のポイントでしょうね。
優れた選手であったはずですが、なんとなくチームカラーが合わないと感じはじめたのでしょうか。そうするとコーチ陣からも冷たい視線で見られるようになってしまう。しかし自分は系列校からの特待生として入学したのだから実積を残さなければならない。
この辺のジレンマが原因といえるのではないでしょうか。
もうここはコーチのいう通りにプレーして自分の居場所を確保しておきたいと思ったのでしょうね。
しかし躊躇があったような気がします。優秀なディフェンスエンドですよ。もっといいポジションを取って、反則にならないかたちでクォーターバックサックを決められたのではないでしょうか。しかし、今回はそれができずに、明らかなレイトタックルで反則をおかしてしまっています。
そんなドジな選手ではないと思うのですけどね。
ですが、つぶすという表現を具現化するにはああいうレイトタックルしか方法がなかったのでしょう。
最後に
最後に、アメリカンフットボールでよく出てくる言葉のちょっと面白い意味をひとつご紹介しましょう。
puntです。
攻撃側が、第4ダウンで10ヤード前進ができないと判断すると、このパントとなるのが普通です。
パンターが登場し、ボールを前に投げて地面に着く前に蹴るのです。
攻撃側がキックをするとその時点で攻撃権を放棄したことになりますが、そのキックでできるだけ相手の攻撃が自陣から遠いところからとなるようにするわけですね。
このパンターはボールを自在に操れます。
落下地点は思いのままですし、回転の掛け方でボールが地面についたときにどっちへ転がるかまで計算してキックしています。
ですが、この攻撃権の放棄ということから、puntには「諦める」という意味もあります。
なにか難しい数学の問題を解いていて、どうしようもなくなってしまったとき、puntとつぶやけば、「やーめた」とあきらめることになります。
但し、アメリカ人でも使わない人というか知らない人も多いですからご注意を。