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2020年東京オリンピックにむけて、通訳ガイド試験に挑戦してみよう!

みなさん、「通訳ガイド」という職業をご存じですか? この正式呼称は「通訳案内士」と言います。外国から日本を訪れる観光客に、英語で(あるいはほかの言語で)案内をする仕事なのですが、2020年の東京夏季オリンピック開催を見据えてますます需要が高まっています。

「通訳」ではなく、外国語を介した「ガイド」になるための試験

一般に「通訳ガイド試験」という呼称がありますが、正式には「全国通訳案内士試験」と言います。これは国家試験の1つで、合格後には「免許」が得られます。本試験は全部で10か国語での免許を設けており、英語/フランス語/スペイン語/ドイツ語/中国語/イタリア語/ポルトガル語/ロシア語/韓国語/タイ語のうち、もちろん免許取得者数が一番多いのは英語です。
また実際に受験者数が一番多く、その伸び率も最高値となっているのも英語です。日本は2020年の東京夏季オリンピック開催を控えているだけに、躍進し続けるインバウンド産業のなかでは当然の結果と言えます。また1ヶ国語だけではなく、2ヶ国語で免許を得ている人も珍しくありません。

ところで「通訳案内士」という職業名のために「通訳」の試験がおこなわれると勘違いされがちなのですが、あくまで外国語とガイド内容(地理歴史)の組み合わせの試験ですから、外国語を100%間違いのないように訳す試験ではありません。
本試験は外国語にフォーカスが行くのではなく、旅行を遂行するだけの知識と社会人としての常識力を問うてくる試験と表現したほうが近いと思います。ガイドさんになるための試験、と認識していただくのが早いでしょう。

どこでどうやって受けるの?

実施団体は日本政府観光局(JNTO)です。年に1回だけ実施される試験で、一次試験(筆記)は8月、二次試験(面接)は12月です。合格発表は2月です。
合格後このままガイド業を志す場合は、3月・4月を中心に各ガイド団体が主催するガイド新人研修を受け、早い人だと4月から少しずつ仕事を得ていく流れとなります。

さてこの試験ですが、受験者規模がそこまで大きくないため受験できる地域が限られています。実はほかの外国語関連の試験と比べても、群を抜いて不便なのです。
筆記試験の会場は、「札幌市・仙台市・東京近郊・名古屋市・大阪近郊・広島市・福岡市・沖縄県」となっています。全国どこからでもwebで申し込みができる点はもちろん助かるのですが、四国にお住まいの方ははっきり言って不利ですね。一番近いところで広島まで出ないといけません。面接試験の会場はもっとチョイスが少なく、「東京近郊・大阪近郊・福岡市」です。わざわざ飛行機に乗って面接を受けに行くなんて、なかなか受けごたえのある試験だと思いませんか?

受験料は、(今後値上がりする可能性もありますが)税込11,700円です。
高いのか安いのかわかりませんが、英検やTOEICと違って本試験はある特定の職業の「免許」を与えるものですから、1万円を超えてくるのはなんとなく仕方がないと個人的には思います。

試験科目は?

筆記試験は全部で4科目です。外国語(10か国語から1つ選択)、日本史、日本地理、一般常識です。外国語科目はマークシートと記述の組み合わせ、そのほか3科目はすべてマークシート方式となっています。
これらの試験は、昼食をはさんでまとめて1日でおこなわれます。

外国語科目は記述部分で英作文力がしっかり問われますから、文法や構文だけでなく文脈における正しい英単語のチョイスもできるように対策を万全にしておきたいところです。日本史や日本地理ですが、こちらもガイド業を遂行するベースで練られた問題につき、特別に対策しておいたほうがよいでしょう。
中学・高校の教科書をもとに基本知識を頭に入れたら、あとは味付けを「ガイド向き」にするのです。たとえば日本地理で北陸地方の問題が出たことがあるのですが、加賀100万石の前田利家の菩提寺はどこかを問う問題が出ました。地理の知識ひとつにも、歴史上の人物の「おいたち」や「人間のロマン」を交えて学んでいく姿勢が必要です。なぜならガイド業は、外国から来るお客様に対してストーリーテラーでなくてはいけないからです。現場では、説明者というよりもエンターテイナーとしての立ち居振る舞いが求められます。

同じように、試験科目の1つである「一般常識」においても、経済白書をただ暗記するだけでなく、その数字が日本人にとってどういう意味を持つのかという前提で学習していくことが必要です。
2011年東日本大震災のあと復興庁が設置されましたが、「2021年」までこの機関が有効であることの知識を問う問題が過去に出ました。
4つの選択肢のうちから1つ正しい年度を正解できればそれでよいのですが、そこにはインフラ面や医療面、農業・産業面でそれぞれどういったアクションプランがあって完全復興に向かうのかのストーリーを理解していないといけません。ガイド業は、自分自身が日本における一生活者として正しく国を理解し、世界にそれを伝えていくのが仕事なのです。

科目によって受験免除の措置がある

さて、少しでも「通訳ガイド試験」にご興味を持たれた方には朗報です。この試験には、科目ごとに「筆記試験の受験免除」の措置を設けていますので、もしあなたの今の英語力が(あるいは日本史の知識が)一定の基準以上に達していることが証明できれば、科目数を減らしてこの試験にトライすることができるのです。
特に、英語については寛容です。数年前までは英検1級保持者だけが英語筆記試験免除の対象だったのですが、ほかにTOEIC 840 点以上/TOEICスピーキング150点以上/TOEICライティング160点以上の取得者も対象となり、一気に受験の裾野が広くなりました。ほかの外国語も同じようにフランス語検定1級やドイツ語検定1級などが免除の条件となりますが、やはりどの外国語をみても「1級」「1級」「1級」…のオンパレード。圧倒的に英語は「TOEIC840点以上」のおかげで敷居が低くなったと言えます。

ほかに、日本史の免除を受けるには、「歴史能力検定の日本史1 級または2 級 」「大学入試センター試験日本史B で60 点以上」のいずれかを満たす必要があるのですが、特に後者のほうが狙い目です。ガイド業用にひねった問題が出ないので、ストレートに知識量で得点していけるからです。

また日本地理の免除を受けるには、「地理能力検定の日本地理1 級または2 級 」「大学入試センター試験現代社会で80 点以上」「総合または国内旅行業取扱管理者」のいずれかの取得が条件となります。こちらはセンター試験を「地理B」ではなく「現代社会」で受けなくてはいけませんから、若干やりにくいのではないでしょうか。
審議中の法案や国際関係などもその出題範囲内ですから、日々アンテナを高く情報収集に努めなくてはなりません。むしろ、これを80点以上得点できる高校3年生ってすごいですね。
なお、「一般常識」科目については免除制度を設けていません。全員必ず受験する必要があります。

合格率は?

2017年実施の試験では、合格率は15.6%でした。10か国語合計で総受験者数10,564人中、合格者は1,649人。このうち「英語」は、受験者が7,978人で合格者は1,304人です。どの外国語をチョイスしても、筆記試験さえ突破してしまえば面接試験は50%以上の確率で合格できるようになっています。とにかく筆記試験が勝負です。

筆記試験はすべての科目で合格している必要があります。4科目合計点ではなく、1科目ずつのシビアなジャッジです。
たとえば「一般常識」の1科目だけ基準点に及ばなかった場合は、翌年の試験でこの「一般常識」にだけ再トライすればよいということになります。ほかの科目は合格のまま翌年に持ち越してくれます。ただし、これは1年に限り有効な処置なので、今回限りで100%合格する自信がなければ面倒でも全科目を受験しておいたほうが無難です。1年に1回しか実施されない試験ですから、目論見が外れたら大変です。
もし面接試験で不合格になった場合は、翌年は面接試験だけに再トライできます。いずれの場合も、受験料に割引はありません。

面接ではどんなことが聞かれるの?

だいたい10分程度の試験で、ネイティブ1名と日本人1名の2人の面接官と個室にておこなわれます。日常会話でウォームアップしたあと、3枚あるカードから1つテーマを選び、それについて自分の言葉で外国人観光客に説明する前提でミニプレゼンをします。
着物や工芸、労働や男女性のことなど、トラディショナルなものから現代テーマまでさまざまです。30秒の準備時間をもらい、選択した外国語で2分間のプレゼンをおこなわなくてはいけません。自分で話した内容について、さらにつっこんだ内容の質問が3問ほど来るのですが、筆記試験対策で十分にこなしてきた内容なので自然に構えていれば大丈夫です。

ほかに、「逐次通訳」と題される問題も出ますが、厳密にはこんな大げさなネーミングにふさわしいものではなく、日本人面接官の読み上げる日本語を自分の言葉で外国語にわかりやすく置き替えて説明できればよいのです。7割ほど概要が伝えられればよしとされています。ここで「通訳しなくては」という思い込みは厳禁で、あくまで自分らしい語彙選択のもと、わかりやすいガイドを心がけることが肝要です。

筆者の場合は、3年越しの合格

情けないことに、筆者の場合は最終的に合格を手にするまで3年も要してしまいました。フルタイムの会社員であることや子育て中の身であることを言い訳にしてよいのかわかりませんが、長かったなあという感想です。「日本地理」が最後まで足を引っ張りました。日本史は大河ドラマや漫画でどんどん楽しみながら自然と学習が進むのですが、どうしても地理は「覚えなくては…」という気構えになり、そこに楽しみが見出せなかったのです。
今になって思えば、旅行すればよかったんですね! こんな名案をどうしてそのときは思いつかなかったのでしょうか。自分の足でまわれば現地の細かい情報も決して忘れないし、自らが旅行者の立場になってみるというのは、ガイド業希望者としては何物にも代えがたい貴重な経験となるでしょう

旅行が大好きな方、「通訳ガイド」試験をパスしてぜひ一緒にガイド業を目指してみませんか? ますます熱くなるインバウンド業界を一緒に盛り上げていきましょう! お読みいただきありがとうございました。

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