いくら平穏に暮らして行こうと思っても、時にはひと言、言わなければならない事態に遭遇することはあるものです。お互いのために、あえて口にしたほうが良いというケースもあります。
そんな時、ただのクレーマーとして適当にあしらわれるか、きちんとした対処を受けて互いに気持ちよく別れられるかは、「貴方の出方次第」でもあります。
Be Diplomatic
私の住んでいるタンザニアでは、警察のあしらい方を知ることは重要とされています。
例えば、車を運転していると、道路脇に控えている警察官に手招きされて車を停められることは珍しくありません。大抵は免許証と車両登録証を確認されて終わりなのですが、何かとケチを付けて嫌がらせをされたという被害例は後を絶ちません。
・Police insisted my fault, which was later proven to be unfounded. (警察は私に非があると言い張ったが、それには根拠がなかったことが後で明らかになった。)
ただでさえ何かと評判の悪い警察ですから、訳もなく停車を求められることだけで不快を感じるものです。でも、だからといってその気持ちを声や態度に表わしてはいけません!
その場を最短時間で収めたいと思うなら、いかに腹の中が煮え繰り返っていたとしても、余裕の態度と笑顔で接することが重要とされています。警察の挑発に乗ってはならないのです。
同じような「常識」がある国も、少なくないのでは?
ところで、外交官のことをDiplomatと言いますよね。
不合理や困難な状況を上手く収め、問題を交わす手腕のある人という意味です。
それは、必ずしも難しい専門的なことではなく、ちょっとした言い方だったり冷静な態度、相手の心を開かせるような声や表情だったりします。
日常の些細な交渉ごとなどでも、そういう能力の有無が結果を左右します。丁寧な言い方をすれば素直に聞いてもらえたであろうところを、腹立ち紛れにキツい言い方をしてしまったために話がこじれたなんてことはよくありますよね。
どうしたらDiplomaticな対処法を身に付けることが出来るかと考えることは、人と上手く付き合い、穏やかに暮らすために重要なことではないでしょうか。
・It is worth thinking how to be diplomatic. (どうしたらdiplomaticに振る舞えるようになるかと考えることは、意義のあることです。)
気持ちに余裕があるうちに手を打っておく
レストランで、ウェイターが何度もテーブルに来て「何か用がないか」と聞いてくることがあります。
タイミングを見計らって来てくれる分には大変ありがたいのですが、同席者と話し込んでいるときなどに何度も声を掛けられて中断させられるのは、あまり気分の良いものではありません。
不快な顔を見せればこちらの気持ちは伝わるでしょうが、それではエレガントとは言えません。
我慢をする必要もないので、気持ちに余裕のあるうちに
「We will call you when we need you. Thank you」 (ありがとう。用事があったら、こちらからお呼びします)
と言えば済むことです。
また、例えば、お店の人が品物を袋に入れてくれようとしているとき、その人の手際が悪く(あるいは気遣いが足りず)、せっかくの品物や袋がグチャグチャになってしまいそうなことがあります。
そのまま黙ってやって貰っていたら、不満一杯で店を出ることになるでしょう。
そんなとき、「もういいです!」と言ってイライラしながら自分でやるということも出来ますが、
「Let me help you」(私にやらせてください)
と言えれば、スマートな印象を与えることが出来ますね。
クッション言葉の活用
日本語でも「恐れ入りますが」や「あいにく」、「残念ですが」などのクッション言葉がありますよね。最初にひとことクッション言葉を添えるだけで言葉の当たりが柔らかくなるので、相手に受け入れてもらい易くなるという効果があります。
英語でも、「I’m afraid」(恐れ入りますが)や「Unfortunately」(あいにく、残念ですが)などのクッション言葉があります。
・I bought some eggs from you but unfortunately they were almost spoiled. I will have to request refund. (お宅で卵を買ったんですけど、あいにく腐りかけていましたので、返金をお願いする必要があります。) ・I bought eggs from you but they were spoiled. Please refund. (お宅で卵を買ったんですけど、腐っていましたので返金してください。)
上記二つの例文は、どちらも同じことを述べていますが、先方にはどのように響くでしょうか。
下の文だと、ぶっきらぼうな印象ですよね。もちろん、言葉のハンデは表情や声でかなりカバーすることも出来ますが、スマートな言い方が出来ると上手く行くことも増えるのではないでしょうか。
「I’m afraid」(恐れ入りますが)を使った例文は、以下の通りです。
・I’m afraid but I think what you have must be mine.
(すみませんが、あなたが持っているのは、私のものではないかと思うのですが。)
間接的な表現
例えば、「悪い」とストレートにいう代わりに「良くない」、あるいは、「たくさん」という代わりに「少なくない」と言ったりします。このような表現方法を「litotes」(緩叙法)や「understatement」(控えめ表現)と呼びます。
・Your speech was bad.(あなたのスピーチ、ダメだったね。) ・Your speech wasn’t very good.(あなたのスピーチ、あまり良くなかったね。)
・Many people remarked so.(大勢の人がそう言ってたよ。) ・Not a few people remarked so.(そう言ってた人は、少なくなかったよ。)
特に、人に注意するときや、相手にとって耳の痛いことを言う時などは、まずこのようなテクニックを使うようにすると喧嘩腰に聞こえにくいので穏やかに伝えられます。
このような表現は好みの問題もあるかもしれませんが、英語でのこういう言い方を知っておくのは良いと思いますよ。
・These tomatoes look old.(トマトは古いですね。) ・These tomatoes don’t look very fresh.(トマトは、ちょっと鮮度に欠けるようですね。)
・The pasta tastes no good.(このパスタは美味しくないです。) ・The pasta doesn’t fit my preference.(このパスタは、私の好みには合いません。)
「hope」を使って、やんわりと不信や不満を伝えるということも出来ます。
例えば、買ったものが不良品だったため交換に出向いたとします。交換はしたけれど、ちゃんと確認出来るまでは、今度は本当に大丈夫かしら? と不安は残ります。
そんな時、「I hope this will be ok」(今度は大丈夫だと言いけど)と、ひと言お店の人に伝えれば、
あなたの微かな心配を伝えることが出来ます。
・I hope I won’t need to come back again. (また足を運ばなきゃならないなんてことにならないといいですけど。)
ユーモアを活用
ユーモアはいつだって気持ちを楽しくしてくれますが、ネガティブな状況でこそ、ユーモアの力が生きるチャンスです。
クレームをつけに行ったのに、相手の対応はあまりにソツがなくて、気付いたらいつの間にか和やかに会話していたなんて経験もあったりしませんか?
その店員さん「Diplomatic」なんですね。苦情を持つ相手の気持ちを上手に受け止める方法を身に付けているというわけです。
ちなみに、日本語で苦情のことをクレーム(claim)といいますが、英語ではそう言っても通じません。Claimは「主張(する)」、「要求(する)」という意味だからです。
「苦情・不満」はcomplaint、「苦情・不満を言う」は、complainまたはmake a complaintです。
・complain about ◯◯.(◯◯に対して苦情・文句を言う。) ・receive a complaint about ◯◯.(◯◯について苦情・文句を受ける。) ・Don’t complain.(文句を言うな。) ・I can’t complain.(文句は言えません。仕方ないです。)
まとめ
ケンカや、いざこざは起こすのは簡単なのですが、後が大変なんですよね。
落ち着いて考えてみたら、何であんなこと・・・と原因が些細過ぎて理解に苦しむようなことさえあるものです。スマートな言い方や対処は相手のためだけではなく、実は大いに自分のためでもあるのです。
イライラした言い方をされたら、誰だって素直になれませんよね。私自身にとっても課題です。